好きな風味、好きな香りー。嗅覚で得られる曖昧な感覚に、言葉が融合されることで顧客の体験価値が大きく変わろうとしています。
より“自分好み”にパーソナライズされた香りの体験を可能にする、香りと言葉を相互に変換するAIシステム「KAORIUM(カオリウム)」。
KAORIUMは現在、フレグランス売り場や飲食店など、200店舗以上に設置されており、さまざまな領域で活用が広がっています。
今回は、そんなKAORIUM開発元のSCENTMATIC株式会社・代表 栗栖俊治氏に、香りと言語の融合によって新たな顧客体験を生み出した導入事例をもとに、“香り”にまつわるこれからのビジネスの可能性について詳しくお話を伺いました。
“香り×テクノロジー”にいま各社が注目する理由とは
――昨今、“香り”に関する研究や事業展開が各業界で進んでいるようですね。
栗栖:はい。今、香りの市場は拡大成長しており、今後10兆円を超える市場になっていくといわれています。
たとえば化粧品の売上におけるフレグランスのシェアはこの5年で10倍に伸びていて、これは消費者がよりフレグランスを手に取るようになっているということでもあり、大きなマーケットの動向にもなっています。
フレグランスや嗅覚の事業領域は我々も2019年からスタートしているのですが、最近続々とスタートアップが伸びてきていて、さらに大企業も続々と入ってきている。NECやアイ・ビー・エムなど、今まで香りを扱っていなかったようなITテクノロジーの企業も嗅覚領域に入り込み始めていて、昨年10月にはソニーも参入を発表しています。
嗅覚の事業領域は、テクノロジー的な観点でも投資され、大きな動きが起こっているという事業領域だとみています。
――なぜ今まで嗅覚領域のテクノロジー活用が進まなかったのでしょうか。
栗栖:我々は嗅覚領域において日本でトップクラスの東京大学・東原教授と共同研究しているのですが、最初に東原教授とお話したときに、嗅覚領域がなかなかテクノロジーが追いつけなかった理由は大きく2つあるとおっしゃっていました。
1つが、鼻の中にある嗅覚受容体はDNAレベルで1人ひとり違っていて、香りの成分の中でも強く感じるものとそうじゃないものがあり、それは人それぞれ全然違うということなんです。
さらに嗅覚受容体でセンシングしたものが脳に入っていったときに、それをどう評価するかとか、どう感じるかというのは、その人の人生経験が強く影響しているとおっしゃっていました。
たとえばわかりやすい事例でいうと、金木犀の香りって今でこそ若い女性に人気のフレグランスにも使われてるんですけれども、実は数十年前は“トイレの臭い”っていわれていた香りだったりもするんです。人生経験の中で、どういうシーンでこの香りを感じていたかという記憶が顕著に出ている例だと思います。
嗅覚は記憶とすごく直結した感覚で、プルースト効果と言われたりするのですが、とある香りを嗅いだときに過去のことをすごく鮮明に思い出すような感覚であったりするんですよね。
このように、“香り”は人によって感じ方が違うがゆえに、嗅覚領域にテクノロジーが追い付くのは難しかったというお話をいただいています。