経営層だけでなくワーカー全員がオフィスづくりに参加する

――オフィスを使う人たちの声を聴くことで、どんな反応があるのでしょうか。

当社ではワークショップを導入したりするのですが、少人数の企業が全員で参加するということもあります。

たとえば経営層の方たちと僕らでこういうことを目指したいよねって話をしているけれど、実際のワーカーはどう感じているか聞くと、全くちがう角度の意見が出たりする。そこはスタートアップならではというか、その人数の規模感だからこそやりやすい。僕はここが結構場作りが組織に好影響していくためのポイントだと思っています。

実際の社内ワークショップの様子


会社のミッションや業績について、企業が外へ発信することって結構多いと思うのですが、社員がそこを理解して一緒に歩んでいくというのは結構大きなことじゃないですか。ワーカーが声をあげた結果、実際に何か反映されてたら、会社に影響を残したという手応えが生まれますし、それはポジティブなエネルギーになるんじゃないかと思うんです。

オフィスを考えるプロセスのなかで、自社の代表が言っているビジョンの言葉に対して自分で意味づけできたり、真意を汲み取ってあらためて納得できたりっていう機会にもなっているように思います。

――少人数規模の企業だからこそできるオフィスづくりもあるのですね。

そうですね。ただ現状の人数でずっといくわけではないと思うので、3年後、5年後にどれぐらいの規模にしていきたいかなどを見据えたうえでオフィスの物件選定やレイアウトを検討する必要はあります。

目安としては、30人を境に空間の作り方が変わってくるかと思います。10~30人くらいだと、結構その場で気軽にコミュニケーションができる。代表含め他の人との距離が結構近くて「仕事帰りに飯でも行きましょう」みたいな距離感で会話できるので、カルチャー的な面で意思疎通が取りやすいと思います。直接会話をしなくても相手の様子がわかることが多いので、たとえば社長がどういう動きしてるかとか、社長からもメンバーが努力してるかっていうのが大体把握できる状態です。

――従業員が30人を超えるとどうなるのですか。

代表との距離が生まれ気軽に話しづらくなったり、社員同士の関係にも距離が出やすくなります。そのため、組織としていいふるまいが自然と起こるように、仕組みづくりが必要になってくるフェーズです。

たとえば、フリーアドレスを採用している場合、仲のいい人同士だけで固まっていたり、机の上を片付けないで帰る人がいたり。距離感が近いときはそれも部活的な切磋琢磨のいいムードと感じられる時期もありますが、人が増えた分、背景の理解に温度差がでています。一見小さなことですが、これがこのまま広がっていったらどうでしょう。目指す組織の姿でしょうか。

さらに増えて50人規模になってくると、また変化が起こります。細分化され、だんだん職層が増えていくにつれて経営層とあまり話したことも無いという人も増えていきます。すると、熱い気持ちを込めていたはずのビジョンが、表面上の言葉でしか伝わらなくなるという状況も生まれてきやすいです。

そんな組織への理解度のギャップを埋めるために、今このフェーズの自分たちには、オフィスでどういう行動が起こるのが望ましいのか、これまで築いてきた文化と、目指していきたい状況から紐解いて定義していく必要があります。

――松原さんは、スタートアップ企業にとってオフィスが今後どのような価値をもつものになっていくと考えていますか。

一昔前のオフィスは拡張するべきだ、とにかく大きいオフィスが正解、みたいな一辺倒なところがあったかと思います。

一方、現代では正解って人それぞれでいいよねって価値観になってきているからこそ、同じ旗のもと、同じビジョンに向かう仲間としてどんな行動が称賛されるのか?というところをちゃんと自覚的になって、自分たちでそれを言語化できるレベルまで定義する。その意志を空間に落とし込んだものが”これからのオフィス”として捉えられるのではないかと思います。

もちろん空間だけではなく、制度や文化などいろんなことをあわせてやっていかないと理想の組織づくりや事業成長は成しえないというふうには思うんですけども、目指す状況から称賛される行動を導いていくプロセスを踏めば、オフィスはその一端を必ず担えると思っています。

<インタビュイープロフィール>

松原 大藏(まつばら・たいぞう)
株式会社ヒトカラメディア
ワークデザイン事業部/プランニングチーム

1987年生まれ、東京出身。美術制作会社のハナキアートで大道具としてキャリアをスタートし、美術監督の下でデザインアシスタントとして設計、施工監理に従事。その後、デザインコンサルタント会社にて新事業部の立ち上げに参画。ヒト・モノのコミュニケーションを前提とした空間デザインを軸に、クライアントのブランドイメージとユーザーエクスペリエンスの向上を目的としたデザインを行う。

(取材・文/Techable編集部)