■ トランスミッション
SF90 ストラドーレで初めてフェラーリのラインアップに登場した8速デュアルクラッチ・トランスミッションは、SF90 XX ストラドーレとSF90 XX スパイダーにも継承されている。ただし変速ロジックは大きく変更され、特許取得のロジックを採用。いっそう強力でダイナミックな加速特性を実現し、それだけでなく、この新ロジックは変速時のサウンドも向上させる役割を担っている。
ハイパフォーマンス・ドライビングの際に、中・高回転域でアクセルを戻すと、あのオーバーランの音に似た独特のエグゾーストノートを発生させる。
これを実現するため、トランスミッションの制御ロジックと連動する特殊なエンジン・キャリブレーションを開発している。従来のアクチュエーション・シークエンスを再設計し、燃焼室の圧力サイクルを最適化して、アクセルを戻したまさにその瞬間に、変速時の音を可能な限り強調しながら変速されるようになっているのだ。
■ エアロダイナミクス
このXXモデルは、、フェラーリ史上どのロードカーよりも高効率の空力パフォーマンスを誇り、これに迫るのはスーパーカーのラ・フェラーリのみだ。
発生ダウンフォースはSF90 ストラドーレの2倍以上で、グリップが向上しフィオラノでのラップタイムが短縮されている。
これは、マラネッロが誇る長いレース経験の賜物であり、発熱するコンポーネントと電子機器のための冷却システムも再設計し、最高出力の増大に応じてエンジンルームの冷却性も高められている。
エアロダイナミクスの観点で最も特徴的な要素は、固定式のリヤウィングだ。稼動部であるウイング後端のシャットオフ・ガーニーも専用設計され、ダウンフォースと空気抵抗のトレードオフを最適化されている。
ガーニーの固定配置は2種類あり、LD(ロー・ドラッグ)では、可動エレメントが持ち上がり、固定セクションと整列して空気抵抗を最小限に抑え抵抗を最小化。
対してHD(ハイ・ダウンフォース)では、可動エレメントが下降して吹き抜け部をふさぎ、気流がすべて固定エリアに流れ、この正圧エリアが、リヤのダウンフォースを発生させるだけでなく、流れ込む気流を縦方向にそらして、車速250km/hで315kgという最大ダウンフォースを発生させる。
フロント・スプリッターも専用開発されている。強力な渦状の気流が車体の下に発生し、専用設計されたアンダーボディで負圧を発生させる。フロント・ディフューザーはサイズと幅が拡大され、同じく再設計されたボルテックス・ジェネレーターとの相乗効果によって、発生ダウンフォースが車速250km/hで45kg以上増加している。
フロントのダウンフォースはSF90 ストラドーレから20%増加している。これに重要な役割を果たしたのがフロントのホイールアーチに導入されたルーバーだ。このルーバーによって、フロントのタイヤハウスから空気を抜き出し、フロント全体で、最高速度域で325kg におよぶフロント・ダウンフォースを発生させている。
空気抵抗の増加に対しては、ボディのCd値を低減させている。フロント・バンパーには2種類のブロウン・ダクトが組み込まれ、これが過剰な圧力を抑えて、ボディ内部への気流の通過性を向上させている。
1組目のダクトはフロント・ラジエーターの高さに位置して小さな渦を作り出し、これがフロントタイヤを包むシールドとなって抵抗を減少。2組目のダクトは、より強い気流を直接フロント・ボンネット上へ跳ね上げ、ボンネットとサイドボディの空気の流れを調和させ、サイドのラジエーターに入る管状の気流を整流する役割を果たしている。
タイヤハウス後部からの空気の排出は、ダウンフォースの発生にもドラッグの低減にもメリットをもたらす。タイヤハウスから出た気流は、ボディ表面の形状によって適切に整えられる。
■ 車両運動性能
SF90 XX ストラドーレの開発の目的は、フェラーリ史上最も高いパフォーマンスを持つロードカーを作り上げ、ステアリングを握る楽しさを極めると同時に、SF90 ストラドーレと同様の公道で必要な機能を備えていることだ。その中でもとりわけ、パフォーマンスの使いやすさが重視されている。
特に電動モードでは、典型的な市街地走行から郊外へのドライブに至るまで、幅広い範囲で高いパフォーマンス・ドライビングが可能となっている。電動モードからハイブリッド・モードへの切り替えは、極めてスムーズで、電動フロント・アクスル、8速DCT、リヤ電気モーター、そしてV8エンジンがシームレスに連携することができる。こうして、リニアで伸びのある加速が生み出され、パワートレインは鋭いレスポンスで反応する。
トルクベクタリングや、ブレーキングとアクセルオフでのエネルギー回生機能は、全モードで稼働する。また、フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー2.0がデビューし、これもマネッティーノの全ポジション、あらゆるグリップ条件で稼働している。こうした様々なシステムは、電子サイド・スリップ・コントロール(eSSC)1.0 によってマネージメントされている。
さらに新機能のひとつに、296 GTBでデビューしたABS EVOコントローラーがある。6W-CDSセンサーをフルに活用することで、レーシングカー並みのハイパフォーマンス・ブレーキが実現している。
このシステムは、グリップが高いコンディションで、マネッティーノがレースモード以上の場合に稼働する。6W-CDSセンサーからのデータを使って正確な推定車速を検出することで4輪個別の目標スリップ率を演算し、それに合わせて制動力の配分を最適化する。
その結果、直線でのブレーキングでもターンイン中のブレーキングでも、4輪で発生する前後方向の加減速力をフルに引き出すことができるのだ。
通常、ターンインではリヤアクスルでは前後方向の制動パフォーマンスと横方向の安定性がトレードオフの関係になる。その結果、従来よりさらにブレーキングを遅らせることが可能となり、サーキットでの操作性が向上している。
6W-CDSセンサーは、これまでのバージョンよりデータ量を大幅に向上。特に、加速度と旋回速度を3軸(前後、左右、上下)について計測できる能力により一般的なビークル・ダイナミクス制御システムが車両の動的挙動を検出より、はるかに精緻に読み取れるため、正確で最適なブレーキ介入が可能というわけだ。
この他にSF90 XX ストラドーレはエクストラ・モーターブーストの制御ロジックも備えており、短時間の急激なパワーブーストを実現。
このソフトウェアはeマネッティーノのクォリファイ(予選)モードでのみ作動し、車両がコーナーを立ち上がる重要な局面でパワーを上乗せする。この機能単独により、フィオラノ・テストコースのラップタイムが0.25秒短縮される。
パワーブーストが利用可能かどうかは、ダッシュ・ディスプレイの右寄りにグラフで表示され、残りのブースト回数(最大30回)も表示される。
制御ロジックは、各サーキットの特性により、少なくとも1周から数周にわたってこの機能をフルに利用できる。これは、パワーブーストの利用が最も効果的な区間を経験的に特定し、ラップタイムの短縮に繋がらない区間では作動しない。