10倍よいものを作ったら、ユーザーは新しい方法へ乗り換える
——実際に、B/43はどんなN1の課題から市場を作っているのでしょうか?
無印のパスポートケースに現金を入れて管理している人や紙の家計簿をつけている人が、デジタルの家計管理に移行した時に使ってくれるのではという仮説から始めています。
実際に一定数使ってくれていて、さらにクレジットカードの使いすぎ防止の目的で使ってくれる人も増えています。
また決済履歴を特定のパートナーとリアルタイムで共有したいニーズがあることも分かったので、そのイシューを解決するためにB/43ペアカードをリリースして、顧客の幅を広げています。
いきなり誰もが満足するものを作ることは難しいので、ニッチから始めることはよしとしつつ、手に取ってもらう理由や使ってもらえる幅を増やしています。
——とはいえ、全く新しいサービスを使ってもらうまでのハードルがあると思いますが、どう乗り越えるのでしょうか?
ユーザーインタビューをする中でも、ユーザーは何かの課題解決をするために何かのサービスや方法を採用しています。
よく使われる比喩として「その採用されている方法よりも10倍よいものを提供したら、今使っているものを手放して乗り換えてくれる」が挙げられます。
なので、既存の問題解決方法よりも遥かによいものを作れるかが重要だと思っています。
そのためには、今の体験がどういう状況で生まれていてどういう工数が発生するか、そのユーザーになり切って想像して、自分だったら乗り換えると思える体験を追求すること。そして、やはりメリットを享受できるまでのスピードをいかに短くできるか、簡単にできるか。
B/43でいうと、カード発行から決済してリアルタイム決済を体感できるまでの期間をできる限り短くするために、本人確認も全て自前でこだわって作り込んでいます。
——10倍よいものを作ることが大事ということですが、実際作るのは相当大変ではないでしょうか?
実際にユーザーのあらゆる数値を見て、体験のファネルの数値についても改善のサイクルを回しています。継続的にユーザーインタビューを通して、プロダクトを採用することで、習慣がどう変わったか、どうよくなったかを見ています。
そうやって定量と定性で突き詰めてユーザー体験にこだわっていますし、もっと重要なのはそれを一過性ではなく継続し続けることだと思っています。
創業者が手を動かしてユーザー体験を磨き込むことはできますが、それだけではなく、組織の文化として数値を見て、ユーザーインタビューを当たり前のように行い続けて、プロダクトを改善していくこと。
スマートバンクには専任のUXリサーチャーもいますが、組織で文化として型化していくことこそが大事だと思っています。
——改めて、難易度の高い挑戦かと思いますが、なぜtoCスタートアップにこだわるのでしょうか?
今回は、フリマアプリのFRIL(現ラクマ)を創業して売却してから2度目の起業になります。フリマアプリを作ったことは、自分が作ったプロダクトを通して社会が少しよくなることを実感できた経験でした。
当時、パソコンを使いこなせる人しか中古でモノを売れなかったところから、スマホがあれば誰でも写真を撮ってモノを売れる世の中になりました。
それによって、フリマで売れるかを考えてからモノを買うような習慣ができましたし、捨てられていたはずのものが誰かの手に渡ってよい循環を社会にもたらすことにもつながりました。
そうやって個人の習慣が変わり、文化が変わり、社会が変わるようなプロダクトをまた作りたいという思いがあります。
toCプロダクトを作るのは難しくもありますが、キャズムを超えられたら、大きな新しい産業を生み出せる可能性を秘めていると思っています。