ただ、それだけではなく、バイデン政権が3回にわたって実施した大型支援策の発動に呼応してトラック陸運の需要が伸びていることも明白なのです。

もちろん、世界中どこの政府でもやるように緊急支援とか補正予算とかはありとあらゆる項目まで数え入れて「盛った」数字になっていますが、それにしても表面上の金額だけでも3回合わせて10兆ドルを超える対策というのは、驚きです。

この10兆ドル余りの中で、いわゆる「真水」部分だけでも2兆3000億ドル、GDPの1割近くに達するという推計もあります。

その支援策がいかに大きな製商品の購入に結び付いたかを示すのが、陸運発注量指数です。この指数は1万が好調・不調の境界になっているのですが、コロナ対策が本格化した2020年夏ごろから2022年初頭まで約1年半にわたって長期水準の4~6割増しが続いたのです。

なぜ需要はモノに集中したのか?

これほど物流を活性化させた需要がどこから来ているかと言うと、バイデン政権によるコロナ支援策がかなり意図的に、下に厚く上に薄い構造になっていることが挙げられます。

下段の表は直接給付や税制上の優遇措置が、さまざまな所得階層の世帯にとってどの程度所得を増加させたかを示しています。

アメリカ社会全体としては消費の主な対象がモノからサービスに移っていると言っても、中にはまだ欲しいものが買えないという所得水準の人たちも大勢います。

とくに世帯所得が2万1300ドル未満という層の人たちの所得が約3分の1増えれば、このチャンスに欲しいものを買っておこうということになるのは、自然な成り行きだと思います。

下に厚く上に薄い支援策自体は、もちろん逆に上に厚く下に薄いよりいいことです。ただ、終わりのある臨時措置ですから、そのあとどうなるかにも細心の気配りが必要だったと思います。

バイデン政権のコロナ支援策でいちばん無責任さが表れているのが、緊急事態が続いているかぎり「家賃を未納にしていても滞納扱いしないし、学費ローンの返済が遅れても延滞扱いしない」という項目を入れていたことです。

とくに、学費ローンについては「いずれは学費ローンの残債全部を棒引きにする(いわゆる徳政令です)。それまでの経過措置として未納のままであっても、延滞扱いにしないことにする」と主張していたことです。

同じように「未納でも延滞扱いにはしない」と言われても、家賃の場合はいずれ支払わなければならないことがわかっているので、あまりこの特例を利用して未納を続けた人はいませんでした。

ところが、学費ローンの場合は民主党が2020年大統領選の公約のひとつにもしていたため、「未納のままでいれば、そのうち徳政令で全額チャラになるから、あとからの返済負担が大きくなる心配はいらない」と考えた人が多かったようです。

その学費ローンの残高がどれほど大きな金額かを示しているのが、上段のグラフです。1兆7,600億ドルは、GDPの7%に相当します。そして、現在学費ローンを返済中の人が約4000万人いる中で、民主党を信じて未納を続けてしまった人が64%、約2500万人もいるのです。

これは、ほんとうに深刻な話です。下段の表でいちばん手厚く支援を受けている世帯所得2万1300ドル未満の人たちが受け取った金額が年間3590ドルに対して、学費ローンの月間返済額の平均値は約393ドル、1年未納を続ければ4700ドルも「浮く」ことになっていたからです。

民主党側の主張としては「一応政府系金融機関からの学費ローンに関しては、一定の限度額以下なら免除するという大統領令は出した。だが、保守派ばかりで固めた最高裁がこの大統領令を憲法判断で無効にしたら、それはもう最高裁の責任だ」ということなのでしょう。

実際、最高裁は現在この案件を検討中ですが、自分で何とか学費を工面して大学に通っている人、ローンを受けられずに大学入学を断念した人に対してあまりにも不公平なので、この大統領令は無効と判断する可能性が高いと言われています。