情報番組は「報道番組」である。

バラエティ番組であれば事務所と詳細に打ち合わせや調整をしたところで何の問題もない。しかしそれはあくまでバラエティや歌やドラマなど報道ではない部分、エンタメ番組での話だ。

サンデーLIVE!!のような情報番組は報道とバラエティどっちなのか?そんな疑問はよく目にするが、これはテレビ局が明確にカテゴリ分けをしている。

報道・教育・教養・娯楽・その他(通信販売・その他)、この6つが主な分類だ。

テレビ朝日ならば報道ステーションは報道、サンデーLIVE!!は報道・教育・教養と三つのカテゴリにまたがる※。情報番組は概ねこのような分類のされ方だ。日本テレビのnews zeroも報道・教育・教養と、情報番組と同じ立ち位置だ※※。

※参照・テレビ朝日 放送番組基準、及び放送番組の種別より。 ※※参照・日本テレビ 放送番組の種別より

この分類から分かるように、情報番組でも報道の部分はあくまでニュースと同じ基準で情報を扱う必要がある。

なぜ出演者の所属事務所に放送内容について相談をする必要があるのか。 一体何を相談しているのか。 報道の部分まで相談しているのか。 喜多川氏の性加害疑惑は間違いなく報道のカテゴリだが、その部分まで相談しているのなら報道への介入ではないのか。 ジャニーズ事務所とあうんの呼吸とは一体どういう意味なのか。 報道の独立性はこれでも担保されていると言えるのか。

定例会見の内容では明らかに説明が足りない。「相談」の意味するところが介入でも事前の漏洩でもないのであれば、テレビ朝日は説明する義務がある。

報道機関の「ファイアーウォール」。

報道機関は広告と報道、二つの顔を持っている。テレビ各局はこの二つに加えてバラエティ・歌・ドラマなどエンターテイメントを扱う側面もある。

テレビ各局のジャニーズ忖度と批判される状況はエンタメの部分でジャニーズ事務所に頼り切っていることで生まれている。なぜこれが問題なのかは、テレビ各局は報道機関だから、今回のようにエンタメや広告が報道に影響を与えてしまうと適切な報道がなされないから、という説明になる。

エンタメの部分では関係強化が望ましい。一方で報道では厳しく追及する必要がある。

一つの会社の中で利害が異なる状況が生まれてしまい、それがトラブルや違法行為につながることを避ける仕組みをファイアーウォールと呼ぶ。直訳すると防火壁、つまり問題のある情報が他の部署に伝わらない仕組みが必要となる。

分かりやすいのが金融業界だ。具体的に名前を出して説明してみたい(あくまで例え)。

例えば「みずほ銀行」が楽天に一兆円の融資をすることが決まったとする。楽天は多額の資金調達で新規事業を行う、ということでこれは株価にプラスの情報かもしれない。あるいは赤字の穴埋めが目的で株価にマイナスの情報かもしれない。

もしこの情報が未公開の段階で、同じみずほグループの「みずほ証券」の営業マンが知っていたらどうなるか? もし顧客に「ここだけの話、楽天が多額の融資をうちのグループの銀行から受けるんです」と株の売買を勧めたらどうなるか? これはインサイダー取引と言って経営陣が逮捕されるレベルの大不祥事となる。一部の株主だけが得をする不公平な取引は厳しく制限されている。

情報の漏洩はもちろん、内部の人が利用して株を売買することも違法行為となるため、金融機関や上場企業で働く人は株の売買に制限がかかる。当然、個々の良心に任せられるはずもなく、売買の規制はもちろん情報が外部に漏れないように、内部でも関係ない人には伝わらないような仕組みを構築する必要がある。これがファイアーウォール規制と呼ばれる仕組み・ルールだ。

なぜ介入や漏洩が許されないのか。

これは報道機関も同様だ。報道の客観姓、公平性、中立性を守るために広告と編集は厳しく分けられている。この企業は新聞広告をたくさん載せているから不祥事を起こしても報じられないんだ、などと疑われたら報道機関として命取りになるからだ。

テレビ局ならばエンタメ分野の番組で人気があるタレントを多数抱えている事務所だから不祥事を起こしても報道で取り上げない、などと疑われたら報道機関として命取りになる。まさに現在批判されているジャニーズ忖度だ。これは疑惑すら命取りになることを各局の経営陣はまるで理解していない。

なお、報道介入を指摘した記事には「後輩に事件への言及を待ってもらったことの何が問題なのか良く分からない」という指摘も頂いた。

報道機関が政府やスポンサーや報道対象(今回はジャニーズ事務所)から影響を受けて、その結果ニュースが捻じ曲げられてしまえば、視聴者・読者は正しい情報を得られない。今回の事件ではジャニーズ事務所は報じられる側、つまり当事者であり、東山さんも櫻井さんも当事者と極めて近しい関係にある。

したがって報道に対して他者から何かしらの口出しをされること、それを受け入れることは報道の客観性、公平性、独立性の観点から到底許されない、という説明になる。各局が自社の責任でこのような事情を説明して、だからこの件に発言は出来ませんと説明するのが正しい対応だった。

本来はこのような状況になりかねないタレントをニュースや情報番組に出演させている各局のやり方が問題であり、少なくとも「キャスター問題」で出演者本人に責任は一切なく、むしろ番組と事務所の板挟み状態になっている被害者と言っていい。筆者は櫻井さんや東山さんを発言の有無や内容で批判するつもりはまったくない(キャスター問題については別記事で解説予定)。

テレビ朝日の社長が語る「あうんの呼吸」という異常事態。

メディアの編集権については日本新聞協会も声明を出している。

要約すると、新聞社の経営者と編集者は内部外部を問わずあらゆる者から編集権を守らないといけない、編集権を侵害するものは排除する、とある※。これは新聞でもテレビでも変わらない。報道内容を公開前に漏らす、しかも報道の当事者に漏らすことなど考えられない、ましてや報道の当事者と「相談」するなどあり得ないということだ。

※参照・日本新聞協会の編集権声明 日本新聞協会  3 編集権の確保 1948/03/16

社長が語ったジャニーズ事務所と「基本的にあうんの呼吸」とは一体なんなのか?

これまでも放送に当たって事前に相談することが当たり前の状態だったのか。会見で問われたのはテレビ局のエンタメとしての側面ではなく報道機関としての立場だ。そこであうんの呼吸という言葉が出てくる時点で「報道機関として命取り」の状況であるにもかかわらず、事の重大さを認識していない。

そもそも番組キャスターで事件の当事者と極めて近しい人物が事件について発言することを「自然」と表現する時点で異常としか言いようがない。

櫻井さん、東山さん、そして日本テレビの「シューイチ」でキャスターを務める中丸雄一さんと、三者ともキャスターとしての発言によって、あるいは発言をしなかったことによって大炎上している。日本テレビとテレビ朝日では定例会見で社長が説明を求められる事態にまで発展している。