不満の声への対応の仕方

ー選手や監督から受けた抗議のなかで驚いたものや、学びを得たものはありますか?選手に激しい口調で詰め寄られたり、一度に複数の選手の言い分を聞かなければならない場面で心がけていることは何でしょうか?

山下氏:審判員が対応しなければならない、注意しなければいけない、カードを提示しなければならない理由は、(選手や監督のしたことが)競技規則上、良いとされていないからです。なので、そこから学びたくはないと思っています(笑)。「学んだことがある」と言わないほうが良いかなと(笑)。

複数の選手からの不満の声には、色々な対応の仕方があると思います。まず私自身がたくさんの引き出しを持っていないといけませんし、その時、その選手、その場所に応じてその中からベストな方法を出せるように常に考えています。

ただ、それが本当にベストだったのかは、正直結果を見ても分かりません。結局、審判員としてはその判定に至るまでの準備しかできません。準備が全てですし、この部分を突き詰めて正しい判定に繋げることしか、正直できることはないのかなと思います。

ー主審と副審の連係が最も難しい場面は何ですか?試合前にどのような準備や打ち合わせを副審としていますか?

山下氏:副審にも色々な人がいますし、やり方も変わるので何とも言えないんですけど(審判団の間で)見えたものが違うときが難しいですね。(主審から)見えなかったものをサポートしてもらうというのは「(他の審判員へ)ありがとうございます!」という感じですけど、自分と他の審判員とで見え方が違った場合、正しい判定に繋げるのが難しいと思うときがあります。(同じ事象でも)映像の角度によっても、自分の判定が変わるときがあります。

とはいえ、自分たちが持っている情報を合わせて正しい判定に繋げるしかありません。その情報を貰える環境や状況を整えるための打ち合わせをしていますね。せっかく(正しい判定に必要な)情報を他の審判員が持っているのに、私の準備ができていなかったから受け取れなかったというのがないように。

あとは、情報を出しやすい環境を整える。単純に言えば「(判定に関わる重大な情報は)言ってください」と試合前にお願いしておくとか、試合中も自分から他の審判員に聞くとか。なるべく自分が情報を受け取れるように、試合中もその前の打ち合わせも環境を整えたいと思っています。

ー海外の大会でもレフェリーが侮辱的な言葉を浴びてしまうケースがありますが、そんな経験はございますか?もしそういうことが起きた場合は、どのように冷静さを保ちますか?

山下氏:まず、今までにそのような経験は無いです。その場面を想像すると、私は私生活でも本当に喜怒哀楽が無いに等しいので、言われてもそこまで(気にしない)ですかね。少しは何か心の動きがあると思いますけど、冷静さを保てなくなったり、競技規則を正しく適用できなくなるほどの心の状態にはならないと予想しています。

ー山下さんのメンタルの強さは感じています。

山下氏:違います(笑)。メンタルが強いわけではないです。へこんでいますよ、いつも。


山下良美審判員 写真:Getty Images