ACL初の女性審判時は手応えより不安
ー2022年4月のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)メルボルン・シティvs全南ドラゴンズで主審を務められた際は、少々の接触では笛を吹かない姿勢がエキサイティングな試合を生み出したように見えました。手応えや感じた課題を、率直に教えて下さい。
山下氏:その試合はとにかく、ACL史上初の女性トリオ(女性副審:坊薗真琴氏、手代木直美氏)で担当するというのが私のなかでは大きくて。この機会(ACLでの女性審判員登用)を継続させるために、ここで終わらせないようにするために、この試合の判定1つ1つがすごく大切なものになると思っていました。
終わったときは、不安しかなかったというのが正直なところです。もちろん自分たちは精一杯できる限りのことをし判定を下しましたけど、「これで大丈夫だったかな?」という不安が手応えよりも強かったです。自信になったというよりも(ACLでの女性審判員登用が)「このまま続いていけばいいな」と感じた試合でした。
ーその時にも副審を務められた坊薗さんと手代木さんは、どんな審判員ですか?
山下氏:お二人とも審判員としてサッカーに向き合う姿は本当に尊敬できます。私も同じように在りたいと思いますし、同じチームで仕事ができるのを嬉しく思っています。最初(審判活動を始めたての頃)も今もそうですけど、私は坊薗さんのコピーしかしていません。毎試合学ぶことは多いですね。私は主審のくせにお二人からアドバイスをもらいながら、付いていっている感じです。その中でも私自身の力を高めながら、良い審判チームにしていきたいなと思っています。
練習試合こそ審判の正しい理解は大切
ー選手に浸透していないと思われる競技規則はありますか?国際審判員として、特にJリーガーに「もう少し理解を深めてほしい」というルールがありましたら教えて下さい。
山下氏:いつも驚くのは、皆さんよく(ルールを)知っているなと。サッカーへの理解が深いんだなと、いつも試合で感じています。むしろ、それでより身が引き締まるほうが多いですね。正直(選手は)そこまで深く理解していなくても良いのではと。(選手から)何か言われたら、私が「それは違いますよ」と言えばそれで良いとも思っています。
ただ、地元のクラブチームの練習試合では審判員の(競技規則理解の)大切さをすごく感じます。例えば副審。ある攻撃選手が、すごく良い飛び出しをしたとします。本来はオフサイドではないのに(副審がルールを正しく理解していないと)練習試合でオフサイドと見なされてしまう。そうなると、良い飛び出しが実際の試合(公式戦)で使えなくなって、やらなくなってしまう。
ディフェンスライン(守備選手)視点ですと、本来はオフサイドではないのに練習試合でオフサイド判定が下されて、同じ守り方を実際の試合でして点をとられてしまう。(練習試合で正しい判定をされないと選手は)正しいリスク管理ができなくなってしまうんです。
クラブチームのコーチや選手が審判を務めるケースがあると思いますし、私も選手時代に練習試合で副審を務めました。そのときに(ルールに則った)正しい判定を下せるかが大事ですね。トップチームに当てはまることではないかもしれませんが「今、練習試合で主審や副審を務めている人、すごく大事ですよ!」というのは伝えたいですね。