首位のアメリカは圧倒的な強さを生かして、さらに意欲的に他国を引き離す投資拡大を進めているかというと、そうでもありません。
2021年まではそういった気配も感じられたのですが、コロナ危機も去り平常どおりの経済活動がほぼ再開された2022年に、アメリカのAI投資は激減に見舞われたのです。
2013~22年の10年間の世界全体のAI投資総額推移を投資形態別に追ったグラフを見ると、コロナ騒動が勃発し経済活動もいろいろ制約を受けていた2020年にも、約53%という高い伸びを示していたことがわかります。
2021年にさらに88%増と2倍近い伸びを示したのは、首位アメリカのAI投資が600億ドルをわずかに上回る水準から一挙に1200億ドル強へと2倍を超える拡大となったことに牽引されたためです。
しかし、2022年には一転して31%の大激減となりました。ここでもまた、アメリカのAI投資が1200億ドル強から900億ドル強へと大幅に減少したことが響いています。
なぜアメリカのAI投資は2020~21年にかけての2年続きの大激増から、一転して激減してしまったのでしょうか。
次の2枚組グラフは、上段で同じ期間でのアメリカのAI投資総額の推移を示し、下段では2018~22年の各企業のAI投資拡大の意図を尋ねた調査結果を示しています。
上段グラフにインサートされた表を見ると、2021年から2022年で1件で10億ドルを超える超大型案件は4件から6件へと増えています。ですが、5~10億ドルの大型案件が13件から5件へと61.5%も減っています。
さらに、1~5億ドルの中規模案件も277件から164件へと40.8%減少しています。1件当たり1億ドル以下の小規模案件の減少率は9%から14%と小幅にとどまっています。
つまり、投資総額の減少率は投資案件数の減少率より大きかったのです。
下段では奇妙なことに気づきます。2021年の時点でAI関連企業のあいだでは翌22年にAI投資額を拡大する方針だった企業が80%を超えていたのに、実際には2022年のAI投資は大激減となってしまったのです。
去年1年間のAI投資の動向をふり返っておくだけでも、AIは決してバラ色の未来に向かってまっしぐらに突き進んでいる状態ではないことがわかります。
なぜ多くのAI企業が期初の想定に反して2022年中にAI投資を激減させたのかを探る前に、AIに関するもうひとつの懸念要因、AI論文の刊行点数や論文が引用された回数などで中国が圧倒的に強いという点もデータで確認しておきましょう。
AI研究は中国の「ひとり勝ち」次の2枚組グラフでご確認いただけるように、自国研究者が書いた論文が他の研究者によって引用された回数の多さという点で、中国は突出しています。
世界を5つの地域に分けた上のグラフでも、2017年以来一貫して首位の座を守っています。さらに、研究施設別でいうと、中国の研究施設が1位から9位までを独占し、かろうじてアメリカのMITが10位に滑りこむという状態です。
どこか不自然ではないでしょうか。もちろん、なぜか優秀なAI研究者は中国の研究施設だけに集中しているという可能性もあります。
でも、他の分野で中国が圧倒的に強いものというと、太陽光発電パネル、リチウムイオン電池、EV(電気自動車)、数あるオピオイドの中でもとくに依存症形成リスクが高いフェンタニルと、他国では健康や環境のためにあまり大量に生産しないものが多いのです。
中国で、一時博士号取得者が激増したことがあります。