破綻懸念の大きな銀行の見分け方
そこで、アメリカの株式市場では「商業用不動産融資残高+満期まで保有予定の有価証券」を総資産で割った数値が、地方銀行についての破綻懸念の指標として使われています。
満期まで保有する予定の有価証券には、もちろん途中経過ではかなり大きな含み損が出ても満期まで持っていれば額面どおりの金額はきちんと戻ってくるのであまり大きな実現損が出ることはない米国債や、まず潰れる心配のない優良企業の投資適格社債も入っています。
ですが、満期まで待っても償還額が額面よりはるかに低かったり、満期を待たずに大きな債務を抱えたまま担保物件を押し付けられてしまうような不動産担保証券もふくまれているわけです。
このグラフを見ると、ほぼ右肩下がりで危ない資金運用をしている銀行ほど株価下落率も高くなっています。
ですが、危ない運用比率が40%を超えているのに株価は20%弱しか下落していないホーム・バンクシェアズとか、危ない運用が60%を超えているのに株価は約25%しか下落していないプロスペリティ銀行のように、市場がまだ危なさに気づいていない銀行もあるようです。
前回も説明させていただきましたが、アメリカは国民のあいだに金融業界の寡占化に対する警戒心が非常に強く、そのため全国に支店網を張り巡らせた大手銀行が誕生するのが1990年代半ばまで引き延ばされていた国です。
したがって、アメリカの銀行業界は今でも世界中で2位の12倍以上の4200超の銀行が存在する、群雄割拠の様相を呈しています。
寡占化の弊害を防ぐ点ではある程度の効果はあったと思いますが、反面財政的に脆弱な中小銀行も多数生き残っており、金融危機に際して経営が行き詰まる銀行の数も多くなります。
連邦準備制度は「全米で722行が自己資本の半額以上に達する含み損を抱えている」と公表して話題となりましたが、民間の金融研究機関、フーバー研究所は連邦預金保険公社未加入の銀行まで含めた4844行のうち2315行がすでに債務超過に陥っていると見ています。
どちらが真相に近いかと言えば、フーバー研究所のほうでしょう。
実際に危ない銀行が利用する3種類の駆け込み寺のうち、今年3月に中堅銀行が相次いで破綻してから大慌てで創設されたバンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)の利用が4月第1週からほぼ一貫して800億ドル台を維持しています。
BTFPの特徴は、最大1年間利用しつづけることができることなので、アメリカの金融当局が今回の銀行危機の根深さをしっかり認識していることは間違いないでしょう。
ふり返ってみれば、2000~02年のハイテクバブル崩壊、2007~09年の国際金融危機、2011~13年のユーロ圏ソブリン危機、2020~21年のコロナ騒動、そして2022年暮れに始まったアメリカ銀行危機と、21世紀に入ってから4~5年に一度は金融危機が起きています。
その最大の理由は、1994年から州境を超えた銀行の合併統合が許されるようになり、1999年から商業銀行業務と投資銀行業務の兼営禁止が解除されてから、4大銀行とその下の銀行とのあいだの格差が広がったことではないでしょうか。
その結果、4大銀行は軍産複合体や医薬複合体が第二次世界大戦後ずっと続けてきたように、監督官庁を丸め込んでやりたい放題、どんなに巨額の損失を出しても国に救済されて焼け太りという状態になってしまいました。
第二次世界大戦直後に制定された「ロビイング規制法」という名の贈収賄奨励法で何が変わったかと言うと、軍需産業や製薬産業の横暴がまかり通るようになったこととともに、インフレが慢性化したことです。
第二次世界大戦前は、一定期間インフレが続くと必ず揺り戻しが来て、デフレになっていました。その結果ドルの価値も下がりっぱなしではなく、インフレ期間で下がったドルの価値が、デフレ期間で回復するというサイクルになっていました。
しかし、自己資本の数倍、十数倍の借金ができる寡占企業にとって、巨額の資金を借り続けているだけで、自動的に元利返済負担をインフレ分だけ踏み倒すことのできるインフレの慢性化した経済は願ってもない好環境です。
こうして、毎年のインフレ率は低くても持続的なインフレによって1ドルの価値が19世紀最後の年と比べてわずか3セントに下落してしまうという、庶民にとって暮らしにくい世の中になってしまったのです。
また、有力産業の寡占企業はまじめに自社の生産性を高めるより、自社に都合のいい法律や制度を議員や官僚につくらせることによる増益を志向するようになりました。その結果が次の2枚組グラフに明瞭に表われています。
世界総生産は新興国、発展途上国の成長率加速をすなおに反映して右肩上がりのトレンドを形成しています。一方、アメリカのGDPは明らかに第二次世界大戦の終結とその翌年の贈収賄奨励法制定を頂点に右肩下がりに転換しています。
勤労者の犠牲で低成長でも株価は上昇さらに、1889~2009年の120年間のアメリカの年率平均GDP成長率から1999~2009年までの10年間の平均成長率を並べたグラフで、非常におもしろい発見をしました。
上段のグラフを見ただけでも、1949年以降のアメリカ経済は落ちる一方だったことがわかります。
でも、このグラフから10年代ごとの平均成長率を逆算してみたのが、下段のグラフです。何かお気づきになりませんでしょうか。
アメリカ国民が警戒していた金融寡頭政がついに実現してしまった20世紀末からの10年間は、1930年代大不況時の1.2%に次いで低い、1.9%という成長率にとどまったのです。
このグラフだけでも、金融業界の大企業が寡占性を強めることが、経済成長にとっていかに大きなマイナス要因かわかります。
なお「この期間には2000~02年のハイテクバブル崩壊と2007~09年の国際金融危機が入っているから異常に低成長になっていただけだろう」とお考えかもしれません。
それでは2009~19年の10年間の平均実質GDP成長率はどの程度回復していたと思われますか?
2.0%で、1999~2009年の平均成長率よりわずか0.1パーセンテージポイント上昇しただけなのです。
それなのに、金融業界は大盛況でした。どうしてそんなことが可能になったかと言うと、労働分配率(GDPの中の勤労者の取り分)を減らして、資産家の取り分を増やしたからです。
つまり低成長のもとで金融市場が活況を呈するのは、低成長で金融市場も低迷するより資産を持たない庶民にとっては悪いことなのです。
アメリカの銀行業界は、市場経済と統制経済の主戦場だった 前編 第二次世界大戦とともにアメリカの市場経済は終わっていた 後編 第二次世界大戦とともにアメリカの市場経済は終わっていた 前編 商業不動産物件の連鎖破綻でアメリカ中の大都市が廃墟に? 銀行危機はこれからが本番だ 銀行連鎖破綻で確認できた米ドル覇権の終わり
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編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2023年5月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。