じつはこの3行のピーク時総資産を足しただけで、2008~09年の国際金融危機の時期に破綻した100行以上の銀行の総資産をすでに超えているのです。
日本では「中小銀行が破綻しているだけで、経済全体に大きな影響はない」と主張する人もいらっしゃるようですが、まだ危機が始まったばかりで国際金融危機のどん底期に失われた以上の資産破壊が起きているのです。
今回の銀行危機は国際金融危機の頃より根深い問題から発しています。その事実は、地方銀行株ETF(証券コード:KRE)より、大手・中堅銀行ETF(証券コード:KBE)のほうに、大きく値下がりしている銘柄が多いことでも明らかです。
今年の年初から5月初めまでだけで株価が半分以下になってしまった銀行が7行もあります。なぜ中堅銀行に、これほど「危ない」と株式市場に判断されている銀行が多いのでしょうか。
銀行業界総資産の4分の1は投資その理由を、アメリカ銀行業界全体のバランスシートを点検することから解明していきましょう。
上段でご覧のとおり、総資産24兆ドルの約4分の1、不動産融資よりやや多い金額が「有価証券」となっています。
この中には、アメリカ国債や投資適格社債のように比較的リスクの低いものから、株や不動産担保証券のようにかなりリスクの高いものまで含まれています。
不動産のように大きな実体価値のあるものが担保になっていれば、あまりリスクはなく、債務不履行が生じたら担保物件を引き取れば大きな損失は出ないだろうと思いこみがちです。
ところが不動産物件の価値は、金利の上下動に非常に敏感に反応するのです。
大ざっぱな説明になりますが、金利が低いときには翌年、再来年に入ってくるであろう賃料収入は現在の賃料収入とほぼ同等に評価できますが、金利が高くなると同じ賃料収入は遠い将来になるほど低く評価しなければならないのです。
だいたいにおいて金利の高い経済圏ではインフレ率も高く、金利の低い経済圏ではインフレ率も低いので、名目では同じ賃料収入であっても、インフレ率の高い経済圏では実質賃料収入は目減りの仕方が激しいと考えることもできます。
将来何十年かのあいだの賃貸収入の合計を金利で割り引いたものを、収益還元法によるその物件の価値と呼びますが、金利が0.5%の時代と5%の時代では天と地ほどの大きな差が出てきます。
アメリカとしては異例の低金利だった2008年秋から2022年春までと、連邦準備制度(Fed)による持続的な金利引き上げによって金利が急上昇した今とでは、まったく担保となる不動産物件の価値も変わってしまったわけです。
そのへんの事情を示しているのが下段のグラフです。
まだFedによる連続利上げが始まってから丸1年経っていなかった2022年末の時点では小売、集合住宅、(工場、倉庫、物流センターなどの)産業施設の値下がり率は5%未満、いちばん値下がり率が高いオフィスでも8%程度の値下がりにとどまっていました。
今後まだまだ利上げが続き、収益還元法による物件価値がさらに下がることを想定すると、どうなるでしょうか? 小売物件だけはモールなどがすでにかなり大幅に値下がりしていたこともあって、10%未満の値下がりで底打ちすると考えられています。
しかし、集合住宅と産業施設は20%台前半まで、オフィスビルにいたっては30%以上値下がりしてやっと底打ちすると推定されているのです。