残酷だった「ミス南」との格差

 生稲がおニャン子に加入する少し前に、「Soda Fountainミス南コンテスト」の優勝者は、ソロのアイドルとして華々しく売り出されていた。あだち充の命名とされる「浅倉亜季」という芸名にて、アニメ『タッチ』の挿入歌でローソン「ソーダ・ファウンテン」 CMソング「南の風・夏少女」で歌手デビュー(5月21日)。もちろん、CMには浅倉南と同じ髪型の彼女が出演していた。かなり恵まれたデビューではあったが、残念ながら浅倉亜季は爆発的な人気を得ることなく、数年で芸能界を去っている。

 これに対し生稲は、おニャン子メンバーとしてメディアへの大量露出を果たし、グループのなかでも3本の指に入る……というほどではなかったものの、短期間で人気メンバーのひとりに成長。

 1986年10月リリースの渡辺満里奈のデビュー曲「深呼吸して」では工藤静香とともにバックコーラスを任せられ、さらに同年11月リリースのおニャン子クラブ6枚目のシングル「恋はくえすちょん」では、ついにフロントボーカルのひとりに選ばれた。少なくとも、運営側に推されているのは確かだった。

ローソンのCMに単独出演し、事務所に属さずフリーゆえにギャラを“総取り”!

 そして1986年12月には、おそらく前述の浅倉亜季も穏やかではいられないような衝撃的な出来事が起こる。ローソンが冠の「Soda Fountainミス南コンテスト」に落ちた生稲が、そのローソンの「からあげクン」のCMに単独で出演したのである。しかも、CM曲として、彼女のソロ曲(おニャン子のアルバム曲をひとりで歌唱)が流れていた。

 なお、2010年に『くだまき八兵衛』(テレビ東京系)という番組に、新田恵利(会員番号4番)と生稲が出演した際、“当時の生稲は事務所に所属しておらず、CM出演ギャラをまるごと得ることができた”といった旨の話をしている。だとすると、ホリ・エージェンシーとの契約はいつの間にか切れていたことになる。

 一方、浅倉亜季は翌年1月にはフジテレビ系の単発実写ドラマ『ナイン』(原作はあだち充)でヒロインを演じ、さらに6月には同じく『タッチ』でついに浅倉南を演じたものの、飛躍のきっかけとすることはできなかった。