目次
■実は酒蔵が多く、日本酒もクラフトジンも魅力的「菊野商店」
■クラフトジンで“日本おこし”に取り組むプロジェクト・ラボ
■実は酒蔵が多く、日本酒もクラフトジンも魅力的「菊野商店」
伊賀鉄道「デジタル一日フリー乗車券」の特典で選んだ「菊野商店」へと向かってみた。
1908年創業の老舗酒問屋で伊賀の全ての蔵元を扱い、地ビールや地ワインも取り揃え、さらに店で試飲ができるという。
システムは至って簡単。試飲用コイン(1枚300円だが1000円で5枚もらえる!)を店頭で購入し、店の奥にあるコイン式サーバーから好きな酒を選んで注ぐだけ。
店内には試飲スペースとバーカウンターがあり、酒燗器を使ってセルフで燗付けも楽しめる。
店主の菊野ご夫妻に話を聞けば地元住民の利用も多いという。アテの持ち込みが自由(ゴミは持ち帰り)なので、それぞれに肴を持ち寄り日本酒片手に盛り上がることも。
「お客さんが他のお客さんに酒燗器の使い方をレクチャーして、みなさんとても楽しそうに過ごしてくれていますよ」(奥様)
話を聞きながら菊野商店で使用できる「伊賀酒試飲券2枚付き一日フリー乗車券」の画面を見せてコイン1枚をもらい、さらにもう1枚を購入。この日のラインアップは地酒14種と地ワイン2種。
伊賀は「るみ子の酒」で知られる森喜酒造場や、伊勢志摩サミットの乾杯酒に選ばれた大田酒造の「半蔵」など名の知れた酒が多いが、味の好みを伝え「芭蕉 純米吟醸」と「霧隠才蔵 特別純米生原酒 神の穂」をいただく。
芭蕉は爽やかな香りと甘い余韻で飲みやすく、霧隠才蔵はうすにごりでピリリと軽い炭酸を感じるキレの良い味わい。どちらも食事に合わせやすそうな仕上がりだ。
「伊賀には美味しいお酒がたくさんあります。最近はクラフトジンも良いものができました。1人でも多くの人に伊賀の酒の美味しさが伝わるよう私たちも様々なことにチャレンジしていきたいです」(ご主人)
その言葉に他の酒も飲んでみたくなる。追加でコインを購入し伊賀のクラフトジン「これ、曰く。酒・じん HIROSE」をチョイス。
実はこの酒、以前に飲んだことがある。面白い酒ができたと話を聞いて、特別に味わう機会を得ていたのだ。
伊賀産減農薬コシヒカリを日本酒にして、さらにオーガニックなボタニカルで蒸留したジン。生産数が限られ市場にはほぼ流通していない逸品なので再び飲みたくなった。
▼以前飲んだ際のレポートはこちら
ほんの少しのつもりで立ち寄ったのだが、気がつけば1時間も居座ってしまった。そのくらい酒が旨く、人も良い、楽しい時間となった。
菊野商店
伊賀市上野農人町459
■クラフトジンで“日本おこし”に取り組むプロジェクト・ラボ
先ほど味わった「これ、曰く。酒・じん HIROSE」。せっかく伊賀まで来たし、前に記事を書いたのは何かの縁ということで連絡を取り、クラフトジンの仕掛け人・東山さおりさんにお話を伺うことにした。
東山さんがプロデューサーを務める株式会社プロジェクト・ラボは地域活性に必要な仕掛けや取り組みを行うコンサルティング会社で、自分達の名刺代わりにと立ち上げたのがクラフトジン作りだったという。
「伊賀は酒蔵が多く日本酒にとても馴染みがある土地です。ですが国内や海外での日本酒ブームが落ち着き、需要が下降傾向にあるのを知って残念な気持ちになりました。
このままでは廃業を選ぶ酒蔵さんも増えるかもしれないし、そうなると日本酒の技術が失われていってしまう。そこに危機感を覚えたのが始まりでした」
それが、どうしてジン作りにつながっていくのだろうか?
「私たちのメンバーには農家がいて米作りをしています。まず自分達で作った減農薬のコシヒカリで何かできないかを考えました。だけど新たな日本酒ブランドを酒蔵さんと協力して作ったとしても、結局は需要を潰し合うだけで意味がない。
そこで海外に目を向けました。外国人に好まれるお酒で国内の酒蔵さんに迷惑がかからないもの…、考えた末に蒸留酒のジンであれば日本酒から転換して作ることができ、酒蔵さんを守ることもできる」
「たまたま新聞で長崎県の酒蔵さんがクラフトジンを日本酒から作っているという記事を見てこれだ! と思いました。
すぐに電話をかけ翌日会っていただくアポを取り、車で伊賀から長崎まで走りました(笑)。私たちの想いを伝え、酒蔵さんとたくさん相談して、そしてこのプロジェクトが始まったんです」
それからというもの原料となるコシヒカリを収穫するまでの間、パッケージや瓶のデザインなど準備を進めた。収穫したらすぐに長崎へ送り、ジン作りが始まる。
「私自身、味覚が鋭く味にうるさいタイプなのでジンの風味や味わいに、かなり意見を言わせていただきました。
女性でジンをストレートで飲む人はあまりいないですよね。普段ジンを口にしない女性がストレートで飲んで『美味しい!』と思うものでなければ絶対にダメだと思い、妥協はしませんでした」
幾度にも及ぶ調整を経て完成したジン。記念すべき商品版のファーストロットで、東山さんたちはコンテストに挑む。ジンの本場で権威ある「ロンドンスピリッツコンペティション2022」だ。
「出品することに意味があると思っていました。物作りをしていくぞ、仕掛けていくぞ! という決意表明です。そんな中で銀賞をいただくことができました。受賞は自信になりましたし、このプロジェクトを次に繋げていきたいと思っています。
名前の“HIROSE”はここの地名なんです。あくまでこの取り組みはプロトタイプで、同じように地方活性のきっかけとして賛同していただけたら“これ、曰く。酒・じん 〇〇”と各都道府県や地域で種類を増やしていけたらと思っています」
繊細で香りが良く、そして日本酒の名残も感じられる「これ、曰く。酒・じん HIROSE」は、42%ということを忘れ、ついつい飲み進めてしまう美味しさ。
伊賀を、日本を、酒蔵を。元気にしたいと思う情熱人たちの手で作られていた。
プロジェクト・ラボ