さらに貸し倒れ損失を消費者向けと企業向けに分けてみると、いっそう気がかりな点が出てきます。
消費者向けローンでは常にある程度の貸し倒れが生ずることは織り込み済みです。また、企業向けの中でも、中小企業向けは貸し倒れの発生頻度はやや高めになります。
ところが、2022年第4四半期、そして今年の第1四半期と2四半期続けて本業中の本業であるはずの商工ローンで急激に貸し倒れが増えています。まだ金額は消費者向けに比べれば5分の1程度ですが、この増え方は気になります。
これは3月24日投稿の「銀行連鎖破綻で確認できた米ドル覇権の終わり」でも指摘させていただいたことですが、アメリカの銀行業界は副業というべき証券投資で古今未曾有と言ってもいいほどの巨額の含み損を抱えています。
約2600億ドルにのぼる銀行業界全体の純営業利益をもってしても、この含み損を全部消却するには2年以上かかるという金額です。
つまり、現在のアメリカ銀行業界は本業では石橋を叩いて「絶対大丈夫」と思っても、それでも渡ることを躊躇するほど、慎重な経営を迫られているはずなのです。
サービス業主導経済では投資の役割が軽くなるそれなのになぜ、本業の融資でもボロボロと貸し倒れが出てきているかと言えば、結局のところ、企業があまりカネを借りてくれなくなってしまったからなのです。
バンク・オブ・アメリカの場合も、預金総額のうち融資で運用できているのはかろうじて50%強で、残りは融資以外で運用せざるを得ない状況です。
したがって、2022年のアメリカの金融市場のように株価はだらだら下げ基調の上に、金利は急騰を続けて保有債券の価格が急落したりすると、莫大な含み損を抱えてしまうわけです。
企業があまり投資を重視せず、したがって銀行から借金をしてまで大型投資をすることはめったになくなった事情は次の2枚組グラフによく出ています。
上段が、企業が自社の営業活動で得たキャッシュフローと銀行などからの借入金をどんな用途に遣っているかを示しています。
ご覧のとおり、設備投資やR&D投資といった将来の収益を拡大するための投資は少なくなりつづけ、配当や自社株買いといった株主還元の比重が高まっています。
下段は、企業全体としての借入金プラス社債発行残高がGDPに占めるシェアですが、1980年代までは長期間を通じた中央値である5%弱を上回る年が大部分でした。