(1)デジタル化されていること(つまり現金ではない) (2)円などの法定通貨建てであること (3)中央銀行の債務として発行されること
という条件を一般に満たすものであると定義している。
(2)の「円などの法定通貨建てである」ことは理解し易いだろうが、(1)「デジタル化」とはつまり、CBDC導入後の世界では、全ての取引は紙幣や硬貨といった現金ではなく電子的な支払いとなることを意味する。
一日で一度に全ての紙幣や硬貨がデジタル通貨(つまりCBDC)に置き換わるということはないかもしれないが、徐々にその導入割合が高まり、やがて全ての取引がCBDCで行われるようになれば、現金は一切使われないことになる。これだけでも驚く人は少なくないだろう。
では、(3)「中央銀行の債務として発行される」とは、具体的にどのようなことを意味するのだろうか。
例えば筆者がA銀行に1万円を預金したとする。その場合、やりとりはあくまで筆者とA銀行の間のものであって、日本の中央銀行たる日本銀行はそのやりとりそのものを常時監視しているわけではない。1万円はあくまでA銀行のバランスシート上で負債(a liability)として計上され(つまり、日本銀行のバランスシート上に直接筆者の1万円が計上されるのではない)、A銀行は預けられた1万円を筆者に支払う義務を負うことになるだけの話だ。
また、筆者がA銀行を通じてお金を送金する場合、送金する責任を負うのはA銀行となり、ここに日銀は直接関与しない。これが現在、私たちが使っている一般的な銀行のシステムである。
しかしCBDCが導入されれば、その1万円が「中央銀行の債務(a liability of the central bank itself)として発行される」るため、その中央銀行(日本の場合は日銀)が「資金の保有・移転、あるいは表向きの所有者に送金する直接的な責任を負う」ことになる(米シンクタンクのケイトー研究所)。
もっと噛み砕いていうならば、筆者はもはやA銀行とやりとりするのではなく、これまでA銀行の背後にいた日本銀行と直接、完全なデジタル通貨を使ったやりとりをすることになるのである。
例えば、筆者がある1泊1万円のホテルに宿泊するため、財布から現金で1万円を支払った場合は、A銀行であれ、中央銀行であれ、金融機関はそのやりとりについては一切与り知らぬことである。しかし、一切の現金を使わない完全デジタル化したCBDCの世界では、筆者がいつどこに泊まっていくら払った、ということがすべて日本銀行(中央銀行)に筒抜けになってしまうのである。
これについては「市民と中央銀行の間に直接的なつながりが生まれる」などと表現されているが、前述のケイトー研究所は「CBDCは、銀行秘密法の制定や第三者機関の設立以来、金融のプライバシーに対する唯一最大の攻撃となる可能性が高い」と述べており、この指摘は正しいだろう。つまりCBDCの世界では、私たち個々人の日常生活における通貨を使用した経済活動は100%中央銀行に把握されてしまい、プライバシーが完全に毀損されてしまうわけだ。
ちなみに、「政府の銀行」とか「銀行の銀行」などと呼ばれている中央銀行(米国の連邦準備銀行や日本銀行等)という組織は、世界各国の大半に存在しており、それらの国々における法定通貨を刷っている。しかし、それら中央銀行の所有構造は各行様々ではあるものの、いずれも政府機関ではなく一民間組織に過ぎない。
実際、日本銀行は認可法人であり、その出資証券は東京証券取引所に上場されている(銘柄コード8301)が、その証券は民間人がかなりの数を保有しているとされるものの、その所有者は非公開となっていて不明だ。この事実は、最近でこそ少しずつ知られるようにはなってきたが、まだまだ一般常識であるとはいえまい。
つまり、どこの誰が所有しているかわからない一民間組織が、私たち国民全ての金融決済情報のみならず、経済活動に関するプライバシーを完全に把握しかねない、ということだ。