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1. 生活安定と将来展望
簡単な事実から見ていく「これからさき、わたしは、簡単な事実、わかりきった議論、ならびに常識だけをのべるにすぎない」(ペイン 1776=1953:39)。
令和の時代の日本に到来した「人口変容社会」において「異次元の少子化対策」の議論を深めるためにも、学術性を保ちながら、全体としてはこの精神に準拠したい。なぜならこの方法が、百花繚乱的な「私論」が乱れ飛ぶ「異次元性」論争を超えて、少子化の是正策のための統一的見解に近づけると考えられるからである注1)。
デュボスによる出生率低下の条件が実現した現代日本たとえば、現代日本の少子化打開としての「異次元の少子化対策」に有益な古典として、デュボス(1965=1970)がある。そこで引用された箇所「結婚して大家族を育てあげてきた誠実な人の方が、独身のままでいて、ただ人口について語っているだけの人よりも、国家により多くの奉仕を果たしている」(同上:240)は現代日本の少子社会にも通用する。この「わかりきった」指摘をきちんと受け止める力量のある日本人はどれくらいいるだろうか。
この研究書において、人口減少が進む現在とは異なる人口爆発の時代に出生率低下の条件として、デュボスは(ⅰ)社会保障、(ⅱ)一夫一婦制、(ⅲ)晩婚、(ⅳ)生活と住居の改良、(ⅴ)より高度の個人の安全性、をあげた(同上:253)。これらすべてが日本では現実化して、長期的な出生率低下を招き、逆に「異次元の少子化対策」が積極的に論じられるほどになった注2)。
世界的にみて比較的整備された社会保障制度、完成された一夫一婦制度、高学歴により必然化した晩婚と晩産、世界的にみて完成度の高い住宅水準、劣化は見られるものの、まだ日常的安全性が確保されている社会システムなど、60年前のデュボスの主張は現代日本にそのまま該当する。時代を超えて、個人にも社会全体にも通用する「生活安定」と「将来展望」を備えたことが古典の証明なのであろう。