小口預金の流出はFedによる利上げ前から始まっていた
また残高が10万ドルを超すような大口預金をのぞく、ほぼすべてが一般世帯による預金の流出は、連邦準備制度がフェデラルファンド金利の引き上げを開始した2022年3月16日より前の同年3月9日の週から始まっていたことも、示唆に富んでいると思います。
さらに、この「その他」預金の5週前に対する変動率を見ると、中堅銀行連鎖破綻の先陣を切ったシルバーゲートバンクの破綻前に、すでに最大の減少率を記録していました。
残高10万ドル以上の大口預金の主要顧客である大手企業や機関投資家より、一般庶民のほうがずっと経済の健全性に対する感度は良好なのでしょう。
ここで、預金獲得とともに銀行本来の中軸業務であるはずのローン・リース貸出残高についても、1970年代初めからの長期的な推移を見ておきましょう。
こちらも、大激増は何度かあっても、激減は意外に少なかったことに気づきます。2週間前の残高との対比でいうと、1000億ドルを超える減少額を記録したことは今年の3月まで一度もなかったのです。
ハイテクバブルの崩壊や国際金融危機のどん底でも、ローン・リース貸出残高の減少額は1000億ドル未満にとどまっていました。それなのに、今回はまだ世間的には危機に入ったという共通認識もないうちに、1000億ドルを超える貸出残高の減少が起きているのです。
なぜこんなことになってしまったのでしょうか?
投機に手を出した銀行に対する当然の報い最大の理由は、銀行が保有している米国債、とくに長期債で金利上昇に伴う価格下落で巨額の含み損が出ているため、資金運用の自由度が激減していることでしょう。
金利上昇時の長期債には巨額の含み損が出ますが、満期まで持っていれば額面で償還してもらえるので大きな実現損になることは稀です。ただ、貸出需要があるからといってすぐ換金しようとしても、それは含み損を実現してしまうのでできません。
もうひとつ見逃せないのは、銀行までもが非常に投機色の強い未上場株ファンドや特別買収目的会社のような危険な投資対象にも手を出していることです。
「私が将来の大化け企業を発掘する能力を信じてください」というファンドマネジャーが運用している未上場株ばかりで構成されたファンドや、まだ投資対象はこれから探すというカラ箱に資金を入れてしまうわけです。
しかも、たいていの場合、いかにも個人投資家が食いつきやすい、株式市場で話題になっているEV、eコマース、バイオテクノロジー、AI・ロボットのような、もう旬を過ぎてしまったか、永遠にチャンスはこないような分野で新企業を探すわけです。
ファンドマネジャーは上場直後の高値で売り抜ければ大儲けしますが、そこに投資してしまった人たちは、高値から70~90%下がってしまった株を売るに売られず、含み損として持ちつづけるわけです。
このへんの事情については、「米株高元凶の3悪のうち、2悪はこけたが最後はじぶとい」という3月31日の投稿のうち、「経済実態を反映しない株高の元凶その1 IPOブーム」という小見出しの部分をお読みください。
「いくらなんでも銀行はそんなに危ない橋は渡らないだろう」とお考えかもしれません。ですが、残高10万ドル以上とか、25万ドル以上とかの大口の預金口座は金利に敏感で、もっと高い金利が取れると思えばまたたく間に移動してしまいます。
それをつなぎとめておくために、とくに大口預金の多い大手銀行は危ない橋を渡っているのではないでしょうか。
中小銀行は個別の銀行が危ないケースはあっても、全体としてはそれほど投機的な投資をしていないと思いますが、大手銀行やMMFに預金を吸い取られてしまうために全体として預金残高の目減りが大きく、あまり貸出しを増やせない環境にあるはずです。