預金・借入金の動きが異常
こちらはもう、異常としか形容できない不思議な動きをしています。
2022年後半から預金の大量流出が続いていたのですが、今年3月に入るとまず15日と22日の2週続きで1500億ドルを超える流出となってしまいました。一方、借入金は1週間で5000億ドル以上も流入しています。
15日の週ではすでに中堅銀行の連鎖破綻が始まっていたので、自行にも取付け騒ぎが及ぶかもしれないと思って、取りあえず払い出しに必要な資金を借りておいたというのは一応納得できる説明です。
それにしても、たった1週間で5000億ドル(約66兆円)を超す借入というのは、いったい何が銀行業界に起きていたのでしょうか。
ちなみに、預金増減額のほうも週次ではなく月次で見ると、2023年3月はアメリカ銀行史上最大の3890億ドル(日本円にすれば50兆円を超えます)の減少となっていました。
中国は銀行統計が非常に怪しい国なので断言することはできませんが、たった1ヵ月で3890億ドルもの預金が流出するのは、アメリカ銀行史上最大であるだけではなく、おそらく世界銀行史上でも最大の預金流出でしょう。
たとえ最大手でも、1行や2行が取付けの危機を恐れているだけではあり得ないような事態です。つまり、これは個別銀行の経営問題ではなく、銀行システム全体の危機なのです。
借入金の大部分を現金として手元に置いている5000億ドルを超える莫大な借入金を、銀行業界はいったいどういうかたちで持っているのでしょうか。
ご覧のとおり、総額の8割近くを金利を産まない現金のかたちで持っています。やはり、何かしら巨額の払い出しをしなければならない必要に迫られることを覚悟していて、借入金に金利を払いながらまったく利益に貢献しない現金を積み増ししているのです。
なお、2020年の3月最終週から翌週にかけて現金が急増したのは、第1次コロナ騒動で一時金や失業保険の割り増し給付があったために、個人世帯からの預金が急増して運用に回しきれない金額が増えていたのであって、必死に現金を掻き集めていたわけではありません。
現在のアメリカ銀行業界が、国際金融危機の頃アメリカ証券業界屈指の名門、ベア・スターンズが破格の安値でJPモルガンに吸収されてしまったときの教訓を学んで、とにかく現金を掻き集め、運用リスクを避けていることは間違いありません。
この点に関しては、銀行業界にとって厄介な問題ではあるけれどもごくふつうの金利選好が働いているだけで、危機的な事態ではないという考え方もあります。その主旨を次の2枚組グラフを使って説明させていただきます。
「米国銀行業界は1972年から2023年2月まで、1990年代前半以外ではほとんど総預金残高が前年比でマイナスになったことがないほど順調に預金を増やし続けてきた。ところが、連邦準備制度による連続利上げでMMFは高金利商品になったのに、銀行預金は超低金利のままだ。これでは預金がMMFに流出するのは無理もないし、当面預金金利を上げられない銀行としては、まだ流出が続くと見て手元現金を積み増ししておくしかない」というのです。
一応論理的には整合性がありますが、ほんとうにそれだけのことでしょうか? 私としては、なぜ連邦準備制度はどんどん金利を上げているのに、銀行は預金者に支払う金利を上げることができないのかが気になります。
銀行業界全体としてあまりにも証券投資による含み損が大きすぎて、積極運用をすれば含み損を実現するか、含み損を拡大させたまま利益の乗っている投資から実現益を出すというもっと不健全な運用状態に追いこまれるので、預金金利も上げられないのだと思います。
この点に関しては「銀行連鎖破綻で確認できた米ドル覇権の終り」という3月24日の投稿の、1枚目と2枚目のグラフをぜひご覧ください。