朝靄の中出発
錦岡駅から見る住宅街はまだ生活の音がせず、登りきった太陽は厚い雲に隠れている。
露が滴る自転車を軽く揺らし、朝靄に濡れたシートをグローブでサッと拭う。
総重量20㎏だった荷物もずいぶん軽くなった。自転車への積み込みもなれた。
けどそれもこれが最後だ。
帰ろう。
さあ出発だ。
雨の国道36線
僕は雨男。
北海道を縦断した時も半分雨だった。
もちろんわずか4日の旅でもしっかり雨に打たれる。
行きは晴天だった国道36号線を今度は雨の中、反対側の車線を通る。
前回、人力移動の旅では同じ道を通るのがイヤだと書いたと思う。
しかし見ている方向、時間、タイミングでずいぶんと見え方や感じ方が変る。
と今になって思う。
この時は雨と強風でそれどころではなかった。
向かい風に顔をしかめ、水たまりの跳ね返りに唇をゆがめ、叩きつける雨に悪態をつきながらひたすらペダルを回すだけだ。
至福の一杯 ファミマのコーヒー
雨がやんできた。
雲行きはまだ怪しいのでレインウェアは脱げないが、少し腕まくりをする。
そろそろコーヒーが飲みたい。
白老(しらおい)の国道沿いに喫茶店らしき建物があったはずだ。そこに行こう。
と思ったらまだやっていなかった。というかそこは焼き肉やだった。
ガックリしてとにかく「こーひーこーひー」と唱えながらファミリーマートについた。
しっとり濡れた身体にエアコンの冷気が刺さる。
コンビニの店員にしては珍しく「寒かったっしょ、どっから来たのさ~」と話しかけられた。
「なんも札幌まで行っただけ。いま帰るとこ」「きぃ付けんだよ」
レジ横の挽きたてコーヒーを狭い駐車場のタイヤ止めに腰掛けて飲む。
「うんめぇ~~」とカイジばりの声が出る。
我慢していたのもある。寒さと旅の終わりというフィルターもかかっているだろう。
けれど、もう4日も妻とモーニングコーヒーを飲んでいない。
そんな想いが熱いブラックコーヒーに溶けていた気がする。
出川のてっちゃん
モーニングコーヒーの向こうに家族を思い、いよいよラストスパートだ。
天気も回復傾向。
見慣れた道を軽快に進む。
そうだ、この日のためにスマホに入れてきた曲をかけよう。
出川哲朗が出演する「充電させてください」のテーマソングだ。
「さすらおう この世界中を 転がり続けて歌うよ…」
義父が見ているのを横目で見ただけなので、ここしか分からない。
歌詞はおろか題名もよくわからない
けれど上記の歌詞とメロディーラインが実に北海道自転車旅行にピッタリだ。
~さすらおう、この世界中を。転がり続けて歌うよ~
the北海道!国道沿いに馬の牧場!
そろそろ休憩がしたいなと思っていた頃、国道沿いに牧場があった。
馬のことはよくわからないが、おそらくサラブレッドだろう。
あし毛というのだろうか、白い綺麗な馬がいる。
それが霧の中で草を食んでいる。
煙草を吸ってすぐに行こうと思っていたが、しばし眺めていた。
旅ももうすぐ終わる。急ぐ必要はない。