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デレクが語るように、全力でがんばっても大きな差は生まれないのかもしれない。でも、わずかな違いも長期的に見れば大きな差につながるのではないか。そう考える読者もいるのではないだろうか。
そこで次に、長期間がんばり続けることがどのような影響を生むかについてのエピソードを、グレッグ・マキューン著『エフォートレス思考(かんき出版 2021)』から紹介したい。
まだ南極点に到達した者がいなかった1911年、2つのチーム間で南極点到達レースが開催された。対峙したのはロバート・スコットとロアール・アムンセン。両者はほぼ同じ日程で出発した。
スコットのチームは天気がいい日は疲れ果てるまで前進し、悪天候の日だけ休んだ。一方アムンセンのチームは天候に関係なく一定のペースで進み続けた。
スタートから1ヵ月ほど経った12月12日。アムンセンのチームは一気に前進すれば1日で南極に到達する地点に到着した。その日の天気はすばらしかったが、彼らが南極に到達したのは3日後だった。出発した時から毎日15マイルずつ前進することを決めていたからだ。
天候の悪い日以外は疲れ果てるまで前進したスコットのチームと対照的に、アムンセンのチームは十分な休息を取ることにこだわり、ペースを保って前進し続けた。どんな日も15マイルを超えることはなかった。
12月14日、アムンセンのチームは人類史上初の南極点到達を果たした。スコットのチームが到着したのは34日後だった。レースのことを本に書いたローランド・ハンフォードは、勝利の秘訣を一定の持続可能なペースを設定したことに尽きると記した。
がんばることは短期的に大きな違いを生み出さない。また、長期的にはむしろマイナスに働くということが、デレクとアムンセンのエピソードから分かる。
ウィル・スミスが依存していたものがんばることに意味がないのなら、なぜ多くの人はがんばって働くのだろうか。
俳優のウィル・スミスは自身の経験を通してこの疑問に対する解を発見した。ベストセラーとなった自伝『Wil Penguin Press 2021)』のあるエピソードを紹介したい。
ウィルは42歳の時、カリブ海にある人里離れた入江にきていた。ハリウッドで成功し、これまで欲しいものは全て手に入れてきた。しかし妻との関係は悪くなるばかりだった。
昔付き合っていたタニヤに相談すると夫のスコティに会うことをすすめられた。そうして今、ウィルはスコティの仲間とボートに乗っていた。セキュリティガードなしで旅するのは15年ぶりだった。
うたた寝から目を覚ますとスコティ達は水に入って楽しんでいた。ウィルはスコティに向かって「おーい!今日これからどーすんだ!」と叫んだ。スコティは水平線を示しながら「まわりを見てみろよ。(自然と)つながるんだ」と言った。