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プリオン病は感染性のタンパク粒子(プリオン)が脳に蓄積しておこる病気で、ヒトに見られる代表的なプリオン病がクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)である。なお、牛にみられるプリオン病が狂牛病である。プリオンに汚染された牛肉を食べたヒトがCJDを発症し、大きな社会問題になったことを記憶している人は多いのではないだろう。

プリオンは細菌でもウイルスでもなくタンパク質からなる感染性の因子で、プリオンを構成するタンパクがプリオンタンパク質である。プリオン病の原因は、正常型プリオンの立体構造が変化して生じた異常型プリオンで、正常型プリオンを異常型プリオン構造に変換してしまう。

この異常プリオンタンパク質が脳に沈着するとプリオン病を発症する。プリオンで汚染された牛肉を食べてからCJDを発症するまでの期間は約10年と考えられている。この異常型プリオンタンパク質を産生する遺伝子配列はグリシンジッパーモチーフと呼ばれるが、コロナウイルスを構成するスパイクタンパクにグリシンジッパーモチーフが存在する。

CJDの初発症状は抑うつや異常行動などの精神症状であるが、進行すると認知症や運動失調が現れ、1〜2年で全身の衰弱、呼吸不全、誤嚥性肺炎などで死亡する。診断には、脳脊髄液の14-3-3蛋白やタウ蛋白の測定や異常型プリオン蛋白高感度増幅法(RT-QUIC法)が有用である。

14-3-3蛋白とタウ蛋白はCJD以外の病気でも陽性になることがあるが、RT-QUIC法では髄液中の異常型プリオンタンパクを検出するのでより診断的価値が高い。確定診断には特徴的な病理所見やウエスタンブロット法や免疫染色による脳組織からの異常型プリオン蛋白の検出が必要である。

コロナワクチンが開発された当初からスパイク蛋白にプリオン領域が存在することから、将来、CJDを発症する危険性が懸念されていた。ところが、思いのほか、2021年に、トルコからコロナワクチンの接種後に発症したCJDの一例が報告された。

症例は82歳の女性で、コロナワクチンを接種した翌日から神経症状が出現、短期間に病状が進行して死亡した。臨床症状と脳波やMRIなど所見、さらに髄液の14-3-3蛋白が陽性であったことからCJDと診断された。しかし、確定診断に必要な病理検査や異常型プリオン蛋白の検出は行われていない。