PayPalはさらに「過激派やヘイト運動を支援する金融パイプラインの解明ならびに破壊」を行っていくことを公表し、これらの団体のブラックリストに掲載された個人や組織へのサービスの制限を行っているという。

これは例えば、ニュースサイトの一部の記事において公民権活動に反する、または反ユダヤ主義と見做される言論があった場合にはブラックリストに掲載され、それをもとに同社が決済手段の提供を停止している、ということのようだ。

このようなことは違法とされずに実行可能なものなのか。同社の英文の利用規約を確認したところ、同社と直接関係のない「第三者とのやり取り」であっても、「中傷的、取引上の名誉毀損、脅迫、または嫌がらせとなるような行為」があった場合、顧客との取引制限が可能と解釈できるようになっているようだ。

しかし、顧客が第三者のブラックリストに載っただけで一方的にサービスを拒否されることは契約違反の可能性があるかもしれない。仮に顧客の発言や信条を理由に差別的な取り扱いをし、取引を停止し顧客に損害を与えたとすれば、言論・思想信条の自由や財産権の侵害のおそれもあるといえよう。

明確な法的根拠もなく、金融機関の裁量でこのような取り扱いがまかり通っているということは、前述の米国のヘリテージ財団が「財務的な信用スコアが社会的信用スコアに置き換わってきている」と指摘するように、金融機関がESGの観点から「適切でない」と評価した個人や組織を一方的に締め出すことが可能になってきていると言えるだろう。

事例2:ウェルズ・ファーゴ銀行

米国フロリダ州のデサンティス知事は2023年2月の会見で、25年間ウェルズ・ファーゴ銀行の顧客であったブランドン・ウェクスラー(Brandon Wexler)氏の同行の口座が突然封鎖されたことを紹介している。ウェクスラー氏はWex Gunworksという銃器を扱う企業のオーナーである。

同氏がある日同行に預金に行ったところ、「口座が閉鎖されているので預かりはできない」と前触れもなく行員に言われ、「当社のリスク管理のために口座閉鎖を決めた」と聞かされたという。

ウェクスラー氏はビジネス用の口座だけでなく生活のための個人口座も閉鎖され、「1ヶ月以内に全額引き出すように」と言われた。なんとか別の銀行で口座開設ができたことは不幸中の幸いだったが、同氏は「このような仕打ちは間違っている」として憤りを隠していない。

何を根拠に突然の口座閉鎖のようなことがまかり通るのかと思い、ウェルズ・ファーゴ銀行の契約書を読んでみたところ、「当社は、いつでも顧客の口座を閉鎖できる」という文言があった。

一方のウェクスラー氏は、「口座が閉鎖された理由には、バイデン政権が銃規制を進めており、政権側から銀行への圧力もあったのではないか」と推察している。

米国では憲法で銃所持の権利が保障されているが、ここしばらく、銃規制問題は米国の国論を二分するほどに大きな議論となっている。そのなかで民主党・リベラル勢力は銃規制を積極的に推進しようとしている。そして本稿で取り上げているESGもまた、同じ民主党・リベラル勢力が主に推進するものだ。そんなESGへの支持を表明する多くの金融機関も、武器製造企業への投資を控えると公表しているのである。

前述のウェクスラー氏の突然の銀行口座閉鎖事案は、このような党派性の強いアジェンダを、民主党系リベラル勢力が政治の場でなく、政権や大企業、さらには左派アクティビストらの結託を通じて全ての米国民に強制的に押し付けようとする文脈上にある疑いが強いと考えられる。このようなことがまかり通れば、明確な法的根拠もなく、金融機関の裁量で特定の産業の顧客を締め出すようなことにもなりかねない。そして、閉め出されるのは“進歩的な”アジェンダに沿わないと見做される顧客なのだ。