なぜこんなにひどい経済になってしまったのか?

2020年代が始まってから3年が過ぎ、もう4年目に突入しています。これまでのところ、2022年には株も債券も大幅に下がりましたが、アメリカ経済全体が破綻の危機に瀕しているというほど深刻な状態ではなさそうに見えます。

しかし、私は2020年代が1930年代よりもっとひどい事態を招くことを確信しています。

その最大の理由は、1920年代にはなかった法律制度が2010年代にはすっかり定着していて、その制度によって2010年代の企業経営者たちは、1920年代の経営者たちよりあこぎに稼いでいたことです。

第二次世界大戦直後の1946年、アメリカ連邦議会は「ロビイング規制法」という名の贈収賄奨励法を可決しました。

連邦議会に登録したロビイストを通じてであれば、企業や産業団体が青天井で議員や官僚たちにワイロを贈ることができる制度です。

この制度が定着してからというもの、アメリカの有力産業の大手企業は、経営がむずかしくなるたびに政治家や官僚を動かして、自分たちに有利な法律や制度をつくらせて苦境を乗り切ってきました。

企業経営の目的はできるかぎり大きな利益を得ることです。まじめな努力で達成しようと、他国であれば犯罪となるワイロで達成しようと、利益さえ拡大していれば株主から苦情も来ず、自分もストックオプションを通じて巨富を得ることができます。

人間だれしも楽をしたがります。どちらが楽かといえばもちろん贈賄のほうですから、アメリカ中の巨大企業、有力産業団体でロビイングをしていないところは皆無と言ってもいいほどです。

その結果としてのアメリカ経済の成長力の劣化ぶりは、次のグラフに明白に出ています。

全要素生産性とは、同じ量の労働と同じ質・量の資本を投下した場合に、生産物がどのくらい増えるかを測る尺度です。投入した生産要素の量は同じなので、成果物が増加すればそれは技術革新や社会全体の生産基盤の改善の結果と見なすことができます。

労働生産性は資本装備率や天然資源賦与率の違いで出発点から差が付くので、同じ時点での国ごとの生産性比較には使えません。ですが、全要素生産性はそうした要因を全部同一にした上での比較ですから、公平に各国の経済効率を測ることができます。

21世紀の強欲革命は暴力革命を招く?

1929年の大恐慌直前には年率3.5%で全要素生産性が伸びていたアメリカ経済ですが、戦後ロビイング規制法が可決された後の1940年代末か50年代初頭に3.1%でピークを打ってから、全要素生産性が急落に転じます。

1960年代半ばから90年代末までは、あの老大国イギリスに負けるほどアメリカの全要素生産性は低下していました。その後21世紀に入ってから抜き返したのは、アメリカの全要素生産性が回復したからではなく、イギリスがアメリカ以上のペースで下がったからです。

堂々と合法的に不正な手段で利益を得ることができるようになると、経済全体がいかに劣化するかを如実に示すグラフと言えないでしょうか。

ちなみに、私は日頃「AIとか、バイオテクノロジーとかは、世界を豊かにするために何ひとつ貢献していない」と断言しています。

その理由は、蒸気機関が普及した頃、鉄道網が張り巡らされた頃、空中固定法で窒素肥料が量産されるようになった頃、あるいは電力が一般家庭に浸透した頃と比べると、AIやバイオテクノロジーによってほんの少しでも世界各国の全要素生産性が上昇した気配がないことです。

AIびいきの方々は、20年経っても、50年経っても、100年経っても「いや、真価を発揮するのはこれからだ」と言いつづけるのでしょうが。

1920年代と2010年代に、アメリカの資本家・経営者たちは強欲革命と言っても過言ではないほど悪辣な利益拡大策をアメリカ国民に仕掛けました。

20世紀の強欲革命は、1930年代大不況というしっぺ返しを受けました。強欲の度合いが何十倍かに肥大化した21世紀の強欲革命は、大不況程度のしっぺ返しで済むでしょうか。

武装した大衆がアメリカ中の大都市圏で資本家や大企業経営者の掃討戦を始めて、暴力革命にいたるのではないでしょうか?

増田先生の新刊「人類9割削減計画」が好評発売中です。ぜひご覧ください。

編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。