目次
5. 猪の頭が捧げられた祭壇の意味とは?
6. 自然の中に身を置いて感じ取る「夜神楽」の醍醐味
5. 猪の頭が捧げられた祭壇の意味とは?
暗くなる頃には寒さがやってきて、この日は心底冷える夜になりました。私はとにかく寒さに弱いのでモコモコに厚着をしていましたが、舞手と奏者の皆さんは白装束で薄着のままです。
ここで今晩から明日のお昼前まで夜通しで行われる神楽。よほどの想いがないと居続けるには厳しいような極寒の中、覚悟を決め火鉢の前に居場所を構えて、始まるのを待ちます。
今日、舞が行われるのは外神屋(そとこうや)の斎場。山と呼ばれる祭壇には、天に向かう竹の柱にお飾り(椎の小枝の塊に御幣を刺したもの)が付けられていて、そこに神様を勧請するのだそうです。神楽が始まる前に、祭壇の中央には数頭の猪頭が、その隣にお米、お酒、もちなどの神饌が並べて置かれました。
なぜ猪の頭なのかというと、銀鏡では狩猟が行われていて、それを現した神楽もあるのです。32番の「ししとぎり(注※)」は猪狩りの様子を演じ、豊猟と狩りの安全を祈り、山の神に感謝する神楽です。祭壇に捧げられた猪の頭は祭りの最後にシシズーシー(おかゆ)となって会場で振る舞われます。その時に皆で一緒に食べることによって、銀鏡の人々の生き方をリアルに感じ取れるようなとても貴重な体験ができるのです。
(注※)ししとぎりとは...銀鏡では太古から猪などを狙った狩猟生活が営まれており、また、その後の焼き畑農耕時代にも作物を荒らす大害獣の猪猟が盛んに行われていた。猪は良質のタンパク質供給源でもあったため、この地の最も大切な神饌となったのだそう。そのため、神楽演目の中にも「狩りの作法」や「狩り言葉」を滑稽な所作と米良弁(めらべん)とで表現した狩法神事の式32番「ししとぎり」がある。
6. 自然の中に身を置いて感じ取る「夜神楽」の醍醐味
銀鏡神楽の全33番ある舞はそれぞれに個性豊かで、沢山の物語を楽しめます。祝子(ホウリ)の舞や行動ひとつにも意味がしっかりと込められていて、丁寧に表現がされていることに見入ってしまいました。
伊勢神楽の岩戸開きの頃にはちょうど夜明けとなり、遠くの山並みを朝日が照らし始め、徐々に太陽が昇っていく様子を感じられるのも自然の中で見る神楽ならではの醍醐味です。
穏やかな時間が流れている中で、ひたすら繰り返したり飛び跳ね続けるような舞もあります。そんな中でホウリは時にトランス状態に入っているかのよう。どれだけ息が上がっていても立ち止まることはなく、ご神事だからこそできるような真剣な舞が続きます。
ひとつの舞はゆうに半時間超え、ときに1時間を超えています。ホウリたちは時が過ぎていくほどに舞の中に次第と深く入り込んでいくようでした。