日本にもインフレーションの波が押し寄せ、国民生活への悪影響が懸念される中、一部の企業は「インフレ手当」の導入を進めている。インフレ手当とはどのような制度で、どれほどの企業が実施しているのだろうか。

41年ぶりの物価上昇も、平均賃金は30年間上がらず

総務省が2023年1月20日に発表した2022年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)では、価格変動が大きい生鮮食品を除く総合指数は104.1と、前年同月比4.0%上昇した。4.0%の上昇は、第2次石油危機で物価上昇に見舞われた1981年12月(4.0%)以来41年ぶりで、インフレの伸び率が高い水準にあることを示している。

その一方で課題として指摘されているのが、日本の賃金水準だ。日本の平均賃金はここ30年間でほとんど上昇しておらず、経済協力開発機構(OECD)の中でも下位に位置する。

物価が上昇する中で賃金が上がらなければインフレは家計を圧迫するばかりで、暮らし向きに悪影響を及ぼしかねない。こうしたことから、一部企業の中で取り組みが始まっているのがインフレ手当の導入だ。

インフレ手当の導入事例 一時金型と給与上乗せ型

インフレ手当は、どのように支給されるのだろうか。支給方法としては、「月額○○円」という形で給与に上乗せする方法と、一時金としてまとめて支給する方法が考えられる。

報道ベースでは、一時金としてまとめて支給しているケースが多く、支給額は企業によってまちまちだ。以下に示すのは、インフレ手当を実施した企業名と支給額の例だ。

<インフレ手当導入企業>
すかいらーくホールディングス 最大12万円
三菱自動車 最大10万円
三菱ガス化学 最大6万円
北越コーポレーション 10万円
ヤマハ発動機 5万円
オリコン 毎月給与に一律1万円上乗せ

正社員の約10%が「インフレ手当支給されている」と回答

実際にインフレ手当を導入した企業は、どれぐらいあるのだろうか。福利厚生用の食事券の発行代行を手がけるエデンレッドジャパン(東京都千代田区)は、2022年12月にインフレ手当の実態調査を実施した。

全国の20〜50代の正社員2,248人を対象にインフレ手当支給の有無などを尋ねたところ、10.2%が「(インフレ手当が)どのようなものか知っており、実際に会社で支給されている」と回答した。

また、「(インフレ手当を)聞いたことがあり、どのようなものか知っているが、支給されたことはない」が39.3%、「聞いたことはあるが、どのようなものか知らないし、支給されたことはない」が13.1%だった。以上のことから、同社はインフレ手当について支給率が10.2%、認知率が62.6%(10.2%+39.3%+13.1%)と結論付けている。

約9割がインフレ手当は「必要」と回答、インフレの影響色濃く

エデンレッドジャパンは実態調査の中で、一般社員300人を対象にインフレ手当の必要性についても尋ねた。その結果、300人のうち268人(89.3%)がインフレ手当は「必要」と回答し、導入を望む声が強いことがわかった。

インフレ手当を必要だと思う理由に関しては、52.2%が「現在の給与だけでは家計が厳しいから」、51.1%が「物価高で生活が厳しくなってきているから」と回答するなど、インフレが暮らしに響き始めていることがうかがえる。

インフレ手当の使い道は「食費」が70.3%と突出して多く、「光熱費」50.0%、「燃料費」24.7%、「日用品費」15.0%と続いた。支給方法に関しては、76.0%が「月額手当」が望ましいと回答し、理想的な支給額の平均は月額の場合6,715円、一時金の場合6万8,821円だった。

企業体力ない、業績悪化……インフレ手当支給できない理由も

実態調査では、企業の経営者および人事・総務担当者ら300人を対象に、インフレ手当に関する企業側の意向なども尋ねた。

300人のうち、134人がインフレ手当について「支給した」「支給予定」「支給検討中」と回答。支給する目的に関しては「従業員の生活補助」が75.4%で最多、次いで「従業員のモチベーションアップ」53.7%、「会社への帰属意識の向上」26.9%と続いた。

一方、300人のうち166人はインフレ手当を支給していないと回答し、支給しない理由として最も多かったのは「特に必要ない」の39.2%だった。「企業体力がない」(33.1%)、「業績悪化のため」(24.7%)との回答も多く、インフレを価格に転嫁できないなど、インフレが企業サイドに悪影響を及ぼしている可能性も考えられる。

企業側と従業員側でインフレ手当に温度差

一般社員のほとんどがインフレ手当を望む一方で、実際の支給率は約10%と企業側と従業員側で温度差がみられる。インフレ手当を支給したくても企業側に体力がないといった理由で実施できないケースもあるため、今後のインフレ動向を注意深く見守る必要がありそうだ。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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