目次
■作品づくりで大事にしているのは“人を描くこと”
■男らしいフォルムに一目惚れした【テナーサックス】
■作品づくりで大事にしているのは“人を描くこと”
2023年2月現在、『BLUE GIANT』シリーズは通算で29巻目が発売されている。ジャズという珍しいテーマでありながら、読者に感動を与え続ける作品を生み出すため、石塚さんはどういったこだわりを持っているのだろうか。
「ジャズ漫画を描きたいって言い出したのは僕なんですが、物語についてはストーリーディレクターのNUMBER 8さんと一緒に考えています。客観的な意見をもらえて、めちゃくちゃ助けてもらってますね」
NUMBER 8さんと石塚さんは、連載が始まる前からの付き合い。二人三脚でストーリーを考えるだけでなく、作画についても彼の存在が大きいと言う。
「気を抜いて描いたら、NUMBER 8さんから『人になってないよ』と言われることもあって、絵には如実に出るんですよね。怒っている絵、悲しんでいる絵、もちろん全部違うんですが、僕の場合は“人を描く”って心の中で唱えながら描いてます」
『BLUE GIANT』の演奏シーンでは聴衆の姿も描かれているが、全員が同じような表情をしているわけではない。難しい顔をしたり、楽しんでいる顔をしたりと、さまざまな表情を見せている。
「例えば、演奏を聴く人がみんな歓喜の顔をしていたら変なんですよね……。ジャズを聴くっていうことは、“何コレ”って理解していない人がいたり、心のままに楽しんでいたりする人もいる。だからこそ、漫画ではリアルな人を見せることにこだわってます」
このほかにも、サックスを吹いている主人公のポーズをはじめ、何気ない時の表情、首の傾きなど、ひとコマひとコマに念を込めて描く石塚さん。リアルな人が描かれた作品を読んでいると、音だけでなく登場人物たちの息遣いも感じられるかのようだ。
■男らしいフォルムに一目惚れした【テナーサックス】
今回の取材では、石塚さんの事務所に伺った。「ちょっと散らかってますが……(笑)」と案内された室内には、漫画や資料が並ぶ本棚をはじめ、ドラムやベースといった楽器も置かれている。前作に関連するアウトドア用品なども置いてあったが、愛用品として紹介してもらったのが「テナーサックス」だ。
「フェルマーのスーパーアクションというシリーズのテナーサックスで、20年くらい前に水道橋で買いました」
客観的に音を聴きたかった石塚さんは、店員に何本か吹いてもらい、その中で「いい音がするな」と思ったものを購入した。
「なぜ、アルトじゃなくテナーサックスにしたのかと言うと、口元からの曲線にすごく惹かれたのが一番の理由ですかね(笑)」
アルトサックスの場合、口元から続く部分は直線になっているが、テナーサックスはマウスピースからネックのあたりまで緩やかな曲線美を描いている。
「ノコギリクワガタみたいな曲線のカッコよさがあったのが一つ。あとはサイズ感も気に入ってます。以前、ジャズの写真を見たときに、テナーサックスの方が人とのバランスが良いなって感じたんですよね」
主人公が使っている楽器もテナーサックスであるため、演奏シーンを描く時は実際にサックスを構えている写真を撮って原稿にしていると言う。
「なかなか吹けないこともありますが、何かの縁で一緒になったんで、これからも長く付き合っていきたいですね」