いまSNSなどで「東京では世帯年収が1,000万円あっても貧乏」という声が相次ぎ、話題になっている。家賃や教育費が地方に比べて高いためで、年収1,000万円では満足した生活が送れないという。東京と地方の年収や支出を比較し、なぜ「貧乏説」が浮上したか、これが事実かを考察してみたい。

東京と地方、年収の差は200万円以上あるが

総務省統計局が発表した「2019年全国家計構造調査」によると、全国の1世帯当たりの平均年間収入額は558万円に上る一方で、東京都は630万円と全国で最も多い。反対に最も少ないのが沖縄県の423万円で、その差は200万円以上と大幅に開いている。

地方別に見ると、東京を含む大都市圏の関東が605万円と最も高い。一方で北海道や九州、四国が400万円台にとどまるなど、地方部の年収は平均して低いことがわかる。

数字だけを見ると、年収1,000万円は全国平均の約2倍にあたり、決して少なくない額といえるだろう。では、東京で年収1,000万円では「足りない」とされる理由は一体何だろうか。地方よりお金がかかるとされる要素を見ていく。

生活コストがかさむ東京の暮らし

家賃が高い

まずは月収のうち3分の1程度が目安といわれる家賃だ。統計局によると、都道府県別に見た借家(専用住宅)の1カ月当たりの家賃は、東京都が8万1,000円と最も高い。全国平均は5万5,700円だが、最も少ない鹿児島県が3万7,800円と、倍以上の差が開いている。

東京の家賃相場はその需要の多さから全国的にも高くなっているが、住むエリアによっても家賃の差が生じる。東京23区の中でも港区は最も相場が高く、1LDKの家賃相場は20万円以上とされ、単純計算でも年間240万円がかかる。

生活費がかさむ

東京と地方で物価の差が大きいことも挙げられる。統計局の発表した2020年の「10大費目別消費者物価地域差指数」を見ると、東京の物価は光熱・水道を除くすべての項目で全国平均を上回り、特に家賃の項目が際立って高かった。

生活費に占める割合の大きい食料品も、全国平均と比べて高い。東京は人口が密集しているため店舗もその分多いものの、店舗自体の賃料や住居費が高いことで価格に上乗せされていることや、購買力の高い層向けの高価格帯の商品が多いことが理由にある。

また外食サービスが地方より発展していることから、外食への出費がかさむことも考えられる。

教育費が高い

人口が集まる東京には、全国的にも有名な付属中学や高校、大学が集中している。政府統計によると、2人以上の世帯において消費支出に対する教育費の割合は6%に上り、全国で2番目に高いのだ。

有名校が多いだけに、幼稚園や小学生のころから受験対策に教育費を回したり、高校や大学受験に向けた予備校や塾にもお金がかかったりすることが挙げられるだろう。

娯楽が多い

地方と比べて娯楽が多いのも東京の特徴といえる。観光スポットやアミューズメント・レジャー施設、映画館などが点在しており、またどこへ行くにも交通の便が良いことから、週末に出費がかさむということも理由の一つである。

「貧乏説」浮上の背景には何があるか

生活費が地方よりもかかる東京だが、その分年収は全国的に見ても高いことを説明した。ではなぜ「年収1,000万円でも貧乏」と思う人が多発するのだろうか。

まず東京の一部地域では年収1,000万以上の世帯が多いことがある。すべての世帯を対象にした分布の割合を見ると、1,000万~1,500万円が7.0%、1,500万円以上が3.1%と、およそ1割に相当する。

子育て世帯に限れば、約4分の1の世帯が1,000万円を超えている。特に千代田区、中央区、文京区、港区は40%以上が該当しているのだ。

たとえ年収が高くても、すべての人が金銭的に余裕があり豊かな生活を送れるとはいえないようだ。高い生活コストに加え、毎月のローンやクレジットカードの返済額も全国平均を上回り、貯蓄など金融資産は少なくなる傾向にある。

年収が高くても生活に困窮する「高所得貧乏」に陥る世帯も増えている。例えば高所得者の場合、税負担が大きくなる。さまざまな条件が影響するものの、1,000万円前後であれば可処分所得はおおよそ700万円台となる。また給付金にも所得制限が課せられる場合がほとんどだ。

さらに、高所得ゆえの金銭感覚のずれや浪費傾向が生じることも挙げられる。毎月の出費の中でも、子どもにかける教育費への支出が高くなる傾向があるという。高等教育の費用を国が一部負担する高等学校就学支援金制度については、約910万円未満の世帯が対象となる。また中学受験を受ける割合も高くなる。

年収1,000万円でも余裕があるとは限らない

東京は全国的に見ても地方と比べて年収が200万円近く上回っており、1,000万円は平均の2倍と決して少なくはない。その一方、東京の中でも区内に住居を構えるとなると、毎月の生活費や教育費などに対して出費が増える傾向にある。

一部地域では年収1,000万円超えは珍しいことではない。ただ1,000万円前後を超えると生活費や税負担などが大きくなり、「豊かな生活」とはいかないケースも十分に考えられるのだろう。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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