物価高騰で家賃相場が上昇

総務省の2008年住宅・土地統計調査によると、浴室のない住宅の割合は4.5%に過ぎず、新耐震基準が施行された1981年以降に完成した住宅は1%にも満たない。15年が経過した現在はさらに減っているとみられるが、築年数を重ねて間取りも狭いであろう「風呂なし物件」の家賃がリーズナブルであることは容易に想像できる。

新型コロナウイルスの影響などによる経済環境の悪化で、実質賃金は伸び悩んでいる。さらに、物価高騰に歯止めが掛からない状況下では、家賃も上昇傾向にある。民間の不動産会社の調査では、東京都内の標準的な物件の賃料は直近の3年間で3.29%程度値上がりした。専有面積70平方メートルの物件の家賃相場は、築20年でも20.6万円に上る。

そんな中、インターネットを検索すれば多くの「風呂なし物件」がヒットし、専門の不動産サイトまで存在している。成約済みの物件も少なくないことに驚かされるが、そうした住まいを選択することで節約できるのは家賃だけではない。風呂を沸かさずに済むことで得られる金銭的メリットも大きいのだ。

水道・光熱費も節約できて一石二鳥

総務省統計局が集計した家計調査(家計収支編)では、2022年の単身世帯の水道・光熱費は15万7,181円で、前年から2万585 円も増えた。風呂は水だけでなく、ガスや電気、灯油などの熱源も大量に使うため、燃料費高騰の影響を無視できない。世界銀行はエネルギー価格が2022年をピークに下落すると予測したが、2023年も高止まり傾向が続きそうだ。

とは言え、生活がよほど厳しくない限り、わざわざ「風呂なし物件」を選ぶ人は少ないに違いない。「風呂なし物件」はトイレが共同であることも多く、いまどき住もうというのはそれなりの事情がある人と考えるのが普通だろう。そういう意味では、「風呂なし物件」を「人気」と決め付けてしまうのは少々短絡的かもしれない。

ただ、合理的思考が強いと言われるZ世代の若者にとって、自宅に風呂がない暮らしは耐え切れないほど苦痛なものではないようにも思える。シャワールームだけでも設置されていれば体を清潔に保てるし、そう遠くない場所に銭湯やサウナ、スポーツジム、あるいはネットカフェがあるなら手軽にシャワーを浴びたり湯船に浸かったりできるだろう。