生活保護受給世帯の中で、公的年金や恩給を受け取れる高齢者世帯が増えている。「貧困の高齢化」が進んでいることには、どんな理由があるのだろうか。
被保護世帯の半数超が高齢者
厚生労働省が毎月実施している生活保護の被保護者調査によると、保護停止中を含まない2022年10月の被保護者世帯は163万6,360世帯(前年同月比0.1%増)で、ほぼ横ばいながら増加傾向にある。
前年同月比の被保護者世帯数が最も増えたのは、高齢者を除く障害者・傷病者世帯だった。しかし、生活保護を受給する高齢者世帯は90万7,820世帯で、障害者・傷病者世帯(40万7,396世帯)の2倍以上。被保護者世帯全体に占める割合は55.5%に達しており、うち92.4%は単身世帯(83万9,085世帯)だ。
なぜ、高齢者世帯が突出しているのか?
実は、高齢者世帯の割合が突出している状況は長年変わっていない。ただし、2012年10月の受給世帯数は67万8,175世帯だったため、この10年間で20万世帯以上も増えたことになる。
なぜ、これほど多くの高齢者世帯が生活保護を受給しているのだろうか。厚生労働省の2022年版高齢社会白書によると、公的年金や恩給が収入の80%以上を占める高齢者世帯は60.9%。半数近くの48.4%は家計収入のすべてとなっている 。一方、高齢者世帯の平均等価可処分所得は年間218万5,000円で、その他の世帯(313万4,000円)の69.7%にとどまる。
公的年金では暮らせない現実
厚生労働省の2021年度厚生年金保険・国民年金事業の概況を見ても、公的年金の平均月額は厚生年金が14万5,665円。国民年金受給者の老齢年金は、5万6,479円(2021年度新規裁定者は5万4,040円)に過ぎない。消費者物価の高騰が止まらない中、高齢者の暮らしが厳しさを増していることは容易に想像できるだろう。
さらに、老後資金を支える退職金の減少も追い討ちをかけている。日本経済団体連合会などの退職金・年金に関する実態調査(2021年9月度)では、「管理・事務・技術労働者(総合職)」の大卒60歳(勤続38年)の標準者退職金は2,243万3,000円だった。5 年前の2016年の調査では2,374万2,000円だったことから、減少傾向にあることがわかる。
生活保護を受給できる収入条件は、居住している地域と年齢、世帯の人数によって異なる最低生活費(東京都内での一人暮らしは13万円)以下。しかも、公的年金などの収入があれば、その分は差し引かれる。
保護費が最低賃金や基礎年金を上回る「逆転現象」
それでも生活保護に駆け込む高齢者世帯が多いのは、保護費の水準が最低賃金や基礎年金を上回る「逆転現象」の影響が大きいといえるだろう。生活保護では一定の基準額の範囲内であれば家賃が支給され、必要な医療や介護も給付対象となる。
とはいえ、2009年度に事業費ベースで年3兆円を突破した生活保護費を捻出している国と地方の財源には限りがある。5年に一度の改定年に当たる2023年度の支給額は最大6%近く減額される予定だったが、物価高騰や新型コロナウイルスの影響に配慮して特例的に見送られた。
公的年金の欠点を補わされている生活保護
数、割合ともに被保護世帯の最多を占める高齢者世帯の受給が増え続ければ、国民の税負担が重くなるのは明白だ。受給者の抑制には景気回復によって生活の再建を促すのが効果的だが、働く場所も稼働力も乏しい高齢者が生活保護から脱するのは容易ではないだろう。
財政圧迫が懸念される生活保護や公的年金に代わる制度として、すべての国民に無条件で一定額を支給するベーシックインカムの導入を求める声が上がっているが、日本では生活保護制度と年金制度の一体的な検討がされてこなかったのは確かだ。両制度は厚生労働省が管轄しており、高齢者の消費支出を賄うという目的も共通している。
保険料を支払って得られる年金が生活保護の給付額を上回る仕組みにしない限り、低所得の高齢者が生活保護に依存する流れは止められないどころか、さらに加速するだろう。所得保障が手薄な公的年金の欠点を一手に補わされている生活保護は、生活困窮者にとって事実上唯一のセーフティーネットでもあるからだ。
公的年金の所得保障機能強化が急務
高齢世帯が貧困に陥らないようにするには、公的年金の所得保障機能を強化するしかない。そのためには、短時間の非正規労働者にも被用者保険の適用範囲を拡大して、公的年金の傘から弾き出される可能性を低減する、あるいは年金の支給開始年齢を引き上げる代わりに低年金層への給付水準を手厚くするといった施策が急務となる。
もちろん、どんな対策を取ったとしても、全人口の約3人に1人が65歳以上となる超高齢化社会の到来は避けられない。この状況が続けば、「貧困の高齢化」に直面する高齢者はさらに増えるだろう。その時、生活保護制度は持ちこたえられるだろうか。
文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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