2022年11月、関西電力の20代社員が、大学生が就職活動時に受けるウェブテストを「替え玉受験」したため、警視庁サイバー犯罪対策課に逮捕された。近年、企業の採用活動はウェブ化が進んでおり、特にコロナ禍では面接も含めて導入する企業が増えている。多様化する就活ビジネスから、企業に求められるスタンスを考えてみよう。

逮捕容疑は「私電磁的記録不正作出・同供用の疑い」

産経新聞の報道によると、逮捕されたのは大阪市北区大淀南の田中信人容疑者(28)で、逮捕容疑は「私電磁的記録不正作出・同供用の疑い」。そのため、逮捕に踏み切ったのは「サイバー犯罪対策課」となった。ウェブテスト代行者らの摘発は、全国初だという。

田中容疑者は京都大学の大学院を修了。ツイッターを通じて集客しており、4年ほど前から4,000件以上の替え玉受験を請け負っていると自称していた。2022年1~7月、同様の替え玉受験を約300人の就職活動中の学生を対象に、1科目2,000円で計400万円を売り上げたという。

逮捕のきっかけとなった替え玉受験では、依頼した東京都内に住む大学4年の女子大学生も、田中容疑者と同じ容疑で書類送検された。

その後2022年12月、警視庁サイバー犯罪対策課は田中容疑者を再逮捕した。2022年3月に、上記の件とは別の大学生の替え玉受験を請け負った疑いだ。上記の件と同じく、依頼した24歳の男子大学生と23歳の男子大学生が書類送検された。

1社当たりの請負金額、意外に低い?

再逮捕を報じた産経新聞の記事によると、サイバー犯罪対策課は田中容疑者がウェブテストの代行によって、900万円以上を売り上げたとみているという。

「900万円」は一般的な感覚ではかなり大きい金額だが、田中容疑者が替え玉受験をしたのは4,000社あるとみられている。

900万円を4,000社で割ると、1社当たりの請負金額は2,250円。替え玉受験が犯罪になるのは上記のとおりで、そもそも許されるものではないが、ビジネス的な観点で見ると、学生の一生を左右するウェブテストの替え玉受験にしては、かなり低い単価で請け負われていたことがわかる。

長引くコロナ禍で、企業活動では打ち合わせや商談をオンライン化する流れが強まり、移動時間の節約や資料の共有のしやすさなどがメリットとして認識された。一方、画面に映る範囲外に何があるのかはわからない。今回の就職活動におけるウェブテストの問題で、よほどのシステムに投資しない限り、受験者の不正を防ぎにくいことも明らかになった。

学生の不安心理を利用

ここで注目したいのは、学生側の心境だ。今は転職が一般的になっているが、学生にとっては、より理想的な形でキャリアのスタートを切れることに越したことはない。就職活動は、テストの点数によって明確に優劣が決まる、学生が慣れ親しんできた世界とは異なる。合否の基準は曖昧で、初めて就職活動に臨む学生は不安でいっぱいだろう。

そんな心理を利用した「就活ビジネス」は多岐にわたる。学生が特に気を付けたいのは「就活塾」だ。各大学のキャリアセンターや就職課から出てきたり、合同企業説明会に参加したりした学生に声をかけ、無料セミナーへの参加を促すといったものだ。

セミナー自体は無料なのだが、学生はセミナー後に個室へ案内され、あれこれと不安を煽るような文句を並べられた上で、しつこく入塾を促されることがある。

中には会費を支払うために学生ローンを紹介したり、高額な物品の購入を求めたり、友人に入塾を勧めるよう求められたりして、トラブルに発展することもあるという。

厄介なのは、悪質な就活ビジネスがターゲットとするのは、単独で就活に臨んでいるような学生であることだ。こうした学生は頼りにできる友人が少なく、業者側は、学生の不安心理さえ駆り立てれば、自分たちのビジネスに引き込めると思う。学生は誰かに相談することなく、どんどん深みにはまってしまうのだ。

増える「ブラックインターン」

ここまでは「就活生をサポートする」という立ち位置で近付いてくる事例を紹介した。この他、就活を巡る問題の一つに、採用する側の企業が就職希望の学生を低賃金で動かせる「ブラックインターン」がある。

本来、インターンシップは学生が短期で企業に入り、業務体験や懇親会などを通じて企業の雰囲気を理解するのが狙い。実際に業務の一部を担ってもらうようなインターンを実施する企業では、賃金に相当する報酬を学生に支払うこともある。

一方、ブラックインターンでは実質的な時給が100円になるなど、最低賃金を下回るような報酬を設定し、作業の手順だけ教えたら終業時刻まで学生を放置して、労働に従事させるという事例があるという。これでは、学生にとってインターン本来の目的達成はおろか、就活中の貴重な時間を学びのない低賃金の単純労働に割くことになり、マイナスしかない。

悪徳就活ビジネスから学べること

ほとんどの学生は、仕事といってもアルバイトしかしたことがないだろう。その意味で、就職活動は学生が初めて本格的に社会に触れる機会といえる。だからこそ、学生の不安につけ込んだビジネスが成立してしまうのだ。

これらの事例を企業側が採用活動で適法に生かすには、どうすればよいだろうか。

人口減少と人手不足が進む中、企業は「学生を選ぶ側」から「学生から選別される側」になりつつある。そうなると、採用活動のフローを通じて学生が抱く大きな不安心理をケアできれば、若者の支持を得られるかもしれない。自社の魅力を伝えるだけでなく、学生の悩みにも寄り添う姿勢が求められているのかもしれない。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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