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神秘の鉱泉はジョクジャパンパにあり
これがアウト・オン・ア・リムの世界
神秘の鉱泉はジョクジャパンパにあり

『さあ着いた。ここがジョクラパンパだよ。僕らの泊まる場所だ』
『デイビッドは道路の向かい側にある一つのレンガ造りの建物を指した。二十五メートルほど行った所にもう一つ建物があるきりで、他には何も見えなかった。』(P269)
本書でいうジョクラパンパとは、Llocllapampa(ジョクジャパンパ)のこと。そう、前回のペルー秘湯巡り/その1でご案内した炭酸泉の湧く村がある場所です。シャーリーがはじめて幽体離脱を体験したという鉱泉は、ジョクジャパンパ地区にある「Baños Termales de Acaya(アカヤの温泉)」。アカヤの泉温は29度、リュウマチ性疾患や胃腸病、神経症などに効く薬湯として古くから利用されてきました。

『通りを隔てて、"ホテル"と向かい合っている煉瓦の建物は"めし場"と呼ばれていた』(P272)
シャーリーが"めし場"と呼んだ建物は、このレストラン・オリンピコのこと。私が訪れた時は閉まっていたので中の様子は分かりませんでしたが、地元の人が利用する食堂であることは間違いありません。

"めし場"の脇の通路を下ると、マンタロ川へと降りることができます。足元が悪く、シャーリーが『階段は急で、うす暗がりの中で踏みはずしはしないかと気になった』(P273)と心配していたるのも頷けますね。

『下の方から水が流れている音が聞こえてきた。そして日没の光の中に、すばらしいマンタロ川の全貌が現れた』
『「こっちだよ」とデイビッドは言って、煉瓦の囲いのようなところに私をつれていった』(P273)
写真右手のトタン屋根の建物は料金所。シャーリーが訪れた46年前は無料だったようですが、現在は有料となっています。

『彼は粗末な木の戸を開けて中に入り・・・』(P273)ということで、私も早速中へ入ってみました。
これがアウト・オン・ア・リムの世界

デイビッドが『これが、有名なアンデスの鉱泉だよ』とシャーリーをいざなったのがここ。屋根に作られた明り取りから差し込むオレンジ色の光が、黄金色の影を床に落としています。青く塗られた壁は湿気でボロボロになっているものの、その模様が天界に延びる雲のようにも見えてなんともいえず幻想的。古びた小屋なのにその空間はどこか神々しくもあり、不思議な感覚を覚えました。

湯船の底から炭酸ガスの泡が湧き出ているのが確認できます。ただしシャーリーが描写するほどたくさんの量ではありません。彼女が大げさなのか、時代とともに湯船の底に砂や砂利が溜まってガスの出が悪くなっているのか・・・。
中はそれほど暗くはありませんでしたが、私もデイビッドよろしく持参したロウソクに火を灯し、鉱泉に浸かってみることにしました。

『意外なことに、水は暖かく、まるでシャンペンみたいな感じに泡立ち、パチパチと音をたて、肌をチクチクと刺激した』
・・・シャーリーはこう書き記していますが、いやいや、冷たい!浸かってしばらくは、湯船の中でブルブル震えていました。
しかし、肌にまとわりつく炭酸ガスの刺激は確かに気持ちよく、なんだか浮遊感もあります。空間が閉ざされていることで不思議な落ち着きも感じられ、徐々に気持ちがリラックスしてくるのが分かりました。
シャーリーはデイビッドの導きの中でロウソクの光と一体になり、瞑想状態に入っていきます。
『突然、私は周囲のエネルギーと私の呼吸の動きが互いに関連し合っているのを感じた。空気自体が鼓動しているようだった。いや、それよりも私が空気だった。私は空気であり、水であり、暗闇であり、・・・』
そう感じることができれば、どれほど素晴らしいでしょう!

肌を刺激する炭酸。オレンジ色の光に輝く透明感のあるモスグリーンの鉱泉は、神々しくさえ感じます。 鉱泉から出た後は、私もシャーリー同様寒さで歯がカチカチ鳴るくらいでしたが、服を着てしばらく経つと、身体の芯から温まるのを感じました。