こうした動きと並行して昨年来、世界各地で気候変動対策の強化と、化石燃料の使用禁止を求める過激な活動(歴史的名画にケチャップを投げつけたり、石炭を運ぶ車道に自らを接着剤で貼り付けて往来を阻止する等)が頻発していることが報道されている。

地球環境を守るという「崇高かつ正義感に燃えた目的」のためなら、違法な抗議活動も許されるという、過激なレジスタンス活動である。

こうした世界の動きを見る中で筆者が思い出し、書棚から取り出して年明けに読み返した本がある。2003年から2013年までチェコ共和国の大統領を2期にわたり務めたヴァーツラフ・クラウス氏が、大統領在任中の2007年に出版した「環境主義は本当に正しいか?」(邦訳:日経BP社2010年刊)である。

同氏はもともとプラハ大学で経済学博士号をとった経済学者であり、1989年のビロード革命によるチェコの共産主義体制崩壊後、財務大臣として自由市場経済化政策を推し進め、その後92年に首相に就任。2003年には初代チェコ共和国大統領ヴァーツラフ・ハベル氏の後任として、大統領に就任している。

同書は残念ながら現在絶版となっており、図書館で借りるか中古品を見つけなければ読むことができないのだが、最近の世界の動きを見るにつけ、懸念が膨らんでくるので、本稿ではその要点を一部引用しながら紹介していきたい。

先ずクラウス氏が同書を出版した動機は、2007年3月にチェコの大統領である同氏が米国議会下院の公聴会で述べた以下の演説から読み解くことができる(同書に付録として議会証言全文が掲載されている)。

(前略)

私は生涯のほとんどを、共産主義の社会で暮らしてきました。しかし、21世紀の初め、自由、民主主義、市場経済、繁栄にとっての最大の脅威は、もはや共産主義でもなければ、それが形を変え、もっとソフトな形で生き残っているさまざまなものでもない、と言わざるを得ません。共産主義に代わる新たなものとして現れてきたのは、野心的な環境主義です。このイデオロギーは、地球と環境について説き、古いマルクス主義者に似た自然保護のスローガンをもとに、人類の自由で、自発的な進化に代えて、世界規模の中央集権的計画を実行しようとしています。(引用中の強調は筆者追記、以下同じ)

環境主義者は、自分たちの考えや主張は、議論の余地のない真実であると思っています。そして自ら掲げた目標を達成するために、マスコミ操作やキャンペーンという新手の手法を駆使し、政策立案者に圧力をかけています。彼らの議論の中心は、世界の未来が深刻な脅威にさらされていると宣言することで、人々の恐怖を煽り、パニック状態に陥れることです。このような空気を世の中に創り出し、政策立案者に自由主義に反対する措置を採用させ、すべての人間の活動に独断的に制限、規制、禁止、制約を押し付け、巨大な権力を持つ官僚の下す決定に従わせようとしているのです。

(中略)

 気候変動の原因を人間だけに押し付けることで、環境主義者は、経済成長、消費、そして彼らが危険だと想定する人間の行動を制限するための政治行動を求めています。

(後略)

こうした立場に立ったクラウス氏は、同書の第一章で、先ずイデオロギーとしての環境主義を、以下のように痛烈に批判している。