岸田文雄首相が打ち出した「異次元の少子化対策」をめぐり、消費税増税が急浮上している。唐突な論議には与党内からも反発が出ているが、消費税を財源とする社会保障費は膨らむばかり。このまま推移すれば、長期的に見た消費税率の引き上げは避けられない。このまま「消費税世界一」の国になってしまうのか。
IMFが「2030年までに15%、50年までに20%」を提言
消費税が10%に引き上げられたばかりの2019年11月、国際通貨基金(IMF)は日本経済について分析した報告書を公表している。医療や介護などで増え続ける社会保障費を賄うため、2030年までに消費税率を15%に引き上げるよう提言。さらに、2050年までに20%に増税することも促した。
ちなみに、日本で消費税が導入されたのは1989年のこと。3%でスタートした税率は 5%になり、 8%になったのは25年後の2014年だった。
10%に引き上げられたのは2019年と比較的早かったものの、IMFの提言どおり2030年までに15%を実現するとなれば、わずか10年程度で5%が上積みされることになる。
税率30%も現実味?
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年の高齢化率は36.9%まで上昇する見込みだ。2065年には高齢者1人を現役世代1.3人で支えることになりそうだが、政府予想を上回るペースで少子化が進む中では、消費税率の引き上げ論議も加速する可能性が十分考えられる。
内閣府と財務省、厚生労働省などが試算した2040年度の社会保障費は、最低でも188兆2,000億円。最大で215兆8,000億円に上るとされている。
2022年度当初予算ベースは131兆1,000億円で、社会保障費の増加分をすべて消費税で補うとすれば、税率は30%をゆうに超えることになる。
日本の消費税率は本当に低いのか
とはいえ、欧州などでは日本の消費税率より高い付加価値税率(消費税)を課している国が少なくない。財務省の国際比較(2022年1月現在)によると、世界のトップはハンガリーの27%。クロアチア、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドが25%で、20%台に達している国は珍しくない。
「日本の消費税率は高くない」と感じるかもしれないが、日本との違いは軽減税率にある。付加価値税率が20%のイギリスでは食料品や出版物、医薬品、子ども服などは税率ゼロ%。標準税率を軽減するどころか、まったくかからないのだ。
スウェーデンも食料品や宿泊費の税率は12%。書籍やコンサート・スポーツのチケット代は、6%に抑えられている。
付加価値税率が高い欧州各国は、集めた税収を社会保障の充実に還元しているのだ。スウェーデンには相続税がなく、教育費も無料。ハンガリーとデンマークは教育費や医療費が無料で、多くの国民が恩恵を受けやすくなっている。
国民負担率は10年連続40%超
日本で消費税が導入された1989年から34年。個人の所得がそれなりに上昇していれば、消費税率の引き上げ論議も違ったものになっていただろう。しかし、この30年間の平均年収は横ばいで、昨今の物価高騰の影響を踏まえた可処分所得は明らかに目減りしている。
財務省が推計を公表した2022年度の国民所得に対する国民負担率(租税負担率と社会保障負担率の合計)は46.5%に上る。40%を超えるのは10年連続となる見通しだ。 ちなみに2019年時点の数字だが、アメリカの国民負担率は32.4%にとどまる。ヨーロッパ諸国はスウェーデンが56.4%、フランスは67.1%と、日本より高い負担率ではある。
1970年度の24.3%と比べると、国民負担率はほぼ倍増している。多くの人が「昔と比べて負担が重くなった」と感じるのは、決して錯覚ではない。
国民負担率の27.8%を占める租税負担の割合も上昇傾向で、その筆頭格が消費税だ。コロナ禍の真っ只中にあった2020年度、2021年度の国税収入は、20兆円余りを徴収した消費税が最多の税目となった。
強まる消費税依存
「異次元の少子化対策」に先立つ2022年10月、政府税制調査会で突如として消費税増税の案が持ち上がったのは、決して偶然ではない。経済が低迷して久しい日本で景気の波の影響を最も受けにくい安定的な財源は、消費税に他ならない。
もちろん、消費税率が100%まで引き上げられることなど考えにくいかもしれない。しかし現実には、すでにそれに等しい負担を強いられている。国民所得は400兆円余り。消費税以外の税と社会保険料を消費税に置き換えると、国民負担は「消費税率100%」とほぼ変わらないのが実情だ。
ちなみに、仮に消費税率が100%に引き上げられたなら、購入した商品・サービスとまったく同じ額の税金がのしかかる。例えば1万円の買い物には、1万円の消費税がかかるのだ。現在は1万円の買い物にかかる消費税は1,000円なので、消費税の支出は10倍となる。
消費税がかかる支出が1ヵ月間で10万円なら、消費税だけで10万円を負担することになる。
消費税は増税が既定路線
全国商工団体連合会などの調査によると、コロナ禍においてはドイツを始め世界50ヵ国・地域が付加価値税の減税に踏み切ったが、日本における消費税減税は本格的な議論にさえ至らなかった。
税率の引き上げが既定路線となる中、捕捉率の面で劣るといわれる所得税などより消費税の優位性を説く主張もある。消費税を既存の税目と置き換えるというトリッキーな技が認められれば、税率の大幅な引き上げが現実のものとなるかもしれない。
「消費税頼み」から抜け出せない日本は、社会を包み込んでいる絶望から抜け出せるのだろうか。
文・モリソウイチロウ(ライター)
「ZUU online」をはじめ、さまざまな金融・経済専門サイトに寄稿。特にクレジットカード分野では専門サイトでの執筆経験もあり。雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、企業広報サイトなどに編集・ライターとして関わってきた経験を持つ。
【関連記事】
・サラリーマンができる9つの節税対策 医療費控除、住宅ローン控除、扶養控除……
・退職金の相場は?会社員は平均いくらもらえるのか
・後悔必至...株価「爆上げ」銘柄3選コロナが追い風で15倍に...!?
・【初心者向け】ネット証券おすすめランキング|手数料やツールを徹底比較
・1万円以下で買える!米国株(アメリカ株)おすすめの高配当利回りランキングTOP10!