円安に潜む多大な国民へのコスト しかし、この円安誘導には、国民全体にとって大きな負担がつきまとっています。今度は同じように円の対ドル為替レートの変動率と、輸入総額を数量と価格水準に分解した変化率との比較でご覧ください。
日本はエネルギー資源、金属資源はほぼ全量、そして食糧資源についてもかなりの量を輸入しなければ国民生活が安定しない資源小国です。だから、どんなに海外でエネルギー資源や金属資源の価格が暴騰しても、一定量は輸入し続ける必要があります。
というわけで輸入数量はほぼ一定水準を保っているのですが、そのために支払う円ベースでのコストは、2021年春の一段の円安以来、それまでの約1.5倍に膨れあがっているのです。
あとで詳しくご紹介しますが、日本国民の実質勤労所得は21世紀に入って以来延々と20世紀末を下回る水準が続いて、やっと2016年頃になって20世紀末の水準を回復した程度の伸びしかしていません。
それだけ所得が低迷しているのに輸入品を買うたびに従来より1.5倍の代金を払わされたのでは、国民全体の生活水準がじりじり窮乏化するのは当然です。
かんたんに言えば、現自公連立政権は財界のおっしゃるとおりの政策を推進する政権で、国民が窮乏化することなど、輸出産業の収益率向上に比べれば、大した損失ではないとタカをくくっている政権だということです。
もし、日本の輸出産業各社が輸出品を円安になるほど安く売っているということであれば、「品質の良い日本製品を安く買える状態を維持したい」ということで外国政府の暗躍ということも考えられるでしょう。
ですが、実際にはまったくそうなっていないので、これは明らかに財界のご意向に忠実に沿った政策を展開しているだけだと思います。
ただ、そこで気になるのは、政府・日銀の政策に批判的な方々でも「円高になると日本の輸出産業は値下げをしないと売れないので、無理やりにでも人件費を抑制して輸出先での価格競争力を維持しようとする」といった「円高悪者」説を唱える方がいらっしゃることです。
この主張が事実無根であることは、財務省が公表している「貿易統計」をご自分でお調べになればすぐわかることです。
それなのに、政府や大手メディアの宣伝を真に受けて、日本の勤労者の実質所得が伸びないのを円高のせいしたりするのですから、ある意味では財界の忠実な下僕である自公連立政権以上にたちの悪い議論だと言えるでしょう。