日米同盟は日本に安全保障を提供してきました。アメリカの強力な軍事力は、冷戦期も冷戦後も日本の独立や主権を脅かす国家の攻撃を抑止する上で、重要な役割を果たしています。冷戦が終わりソ連が崩壊した後、世界はアメリカが唯一の大国である「単極の瞬間」を経験しました。
しかしながら、中国がアメリカに並ぶ「対等な競争国」としての地位に近づくにしたがい、国際システムは単極から二極に移行しています。こうしたパワー分布の変化は、日本の安全保障にも大きな影響を与えています。今や中国はアジアの地域覇権を狙えるパワーを持ち始めています。中国が勢力の拡張を目指して現状を打破しようとすれば、日本の領土保全は危険にさられます。
こうした中国の高まる脅威を封じ込めるのに、日米同盟はどのくらい有効なのでしょうか。懸念される中国の尖閣諸島への武力侵攻は、日米同盟による拡大抑止で防げるのでしょうか。

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中国は日本の安全保障にとって深刻な脅威です。三期目を決めた習近平国家主席は、昨年11月に共産党中央軍事委員会の作戦指揮センターを「戦争の準備を強化する決意と態度を表明するため」に、わざわざ迷彩服で訪れて、「すべてのエネルギーを戦争に合わせ勝利するための能力を向上させなければならい」と強調しました。
気になるのは、習近平氏が、2016年に開かれた軍幹部の非公開会議で、沖縄県・尖閣諸島や南シナ海の権益確保は「われわれの世代の歴史的重責」だと述べ、自身の最重要任務と位置づけていることです。このことは、我が国の領土征服への中国の野心を示しています。心配される台湾有事についても、中国国防部は、昨年の 11月末に「台湾の武装が中国封じ込めに成功すると考えるのは、馬鹿馬鹿しいナンセンスだ」とアメリカや日本に警告を発しています。
日本政府は、昨年末に公表した「国家安全保障戦略」において、中国を『これまでにない最大の戦略的挑戦』と位置づけて、防衛力を大幅に強化することを決めました。アメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、この文言が、最近発表されたワシントンの防衛戦略を反映したものであると報じて、日米同盟が緊密に連携している証であると論じました。
しかしながら、国際システムにおけるパワー分布の変化は、アメリカの中国に対する抑止力の弱体化を招いているようです。バイデン政権は、沖縄の米空軍嘉手納基地に常駐するF-15戦闘機を今年に撤収して、その後はアラスカからステルス戦闘機F-22をローテーションで沖縄に飛来させることにしました。その理由について、エバン・メデイロス元米国家安全保障会議(NSC: National Security Council)アジア上級部長は、嘉手納基地は中国のミサイル攻撃を受けやすいことから、巡回駐留方式には利点があるとの見解を表明しています。
そうは言っても、米空軍が沖縄に前方展開することは、アメリカが日本に提供する拡大抑止の大きな柱なので、それが細ることは尖閣諸島への中国の侵攻を抑止することに悪影響を与えかねません。
バイデン大統領は「我々は台湾を防衛する」と明言しましたが、その実行に疑問を投げかけるニュースが相次いでいます。アメリカ政府や議会関係者からは、ウクライナでの戦争は台湾向けの190億ドル(2兆8千億円)近い兵器提供の滞りを悪化させ、中国との緊張が高まる中、台湾の武装化をさらに遅らせるとの懸念の声がでています。
終わりの見えない紛争でキーウを武装する突然の要求に追いつくことは、アメリカ政府と防衛産業の能力に負担を強いているのです。ウクライナへの武器の流れは、中国による侵略の可能性から台湾を守るために、台湾を武装させるアメリカの戦略要請と衝突しつつあるのです。