厚生労働省は、2023年4月から雇用保険料を引き上げる方針を固めた。会社員は給与や賞与から雇用保険料が天引きされているため、保険料の引き上げによって手取り額が減ることになる。物価上昇により家計への負担が増している中、なぜ雇用保険料は引き上げられるのだろうか。

今回は、雇用保険料が引き上げられる理由や手取り額への影響について確認していこう。

そもそも雇用保険とは

雇用保険とは、労働者の生活や雇用の安定を図るための制度だ。失業したときや職業に関する教育訓練を受けるとき、子育てのために育児休業を取得する場合などに必要な給付が行われる。

原則として、事業主は労働者を1人でも雇っていれば雇用保険に加入しなくてはならない。雇用保険の財源は雇用保険料や国費から成り立っており、雇用保険料は労働者と事業主の双方が負担することになっている。

2022年10月1日~2023年3月31日の雇用保険料率は以下の通りだ。

労働者負担(①) 事業主負担(②) 雇用保険料率(①+②)
一般の事業 0.5% 0.85% 1.35%
農林水産・清酒製造の事業 0.6% 0.95% 1.55%
建設の事業 0.6% 1.05% 1.65%

一般の事業を行っている会社であれば、労働者負担は0.5%、事業主負担は0.85%で、雇用保険料率の合計は1.35%だ。仮に給与を月30万円受け取っている場合、労働者は雇用保険料として毎月1,500円(30万円×0.5%)が天引きされる。

雇用保険料引き上げの概要

2022年12月、厚生労働省は審議会において、現在の雇用保険料率引き下げ措置を2022年度末で終了し、2023年4月から雇用保険料率を引き上げる方針を示した。現行の1.35%から0.2%引き上げ、1.55%(労働者0.6%、事業主0.95%)となる予定だ。労働者にとっては、0.1%の負担増となる。

雇用保険料率が引き上げられる理由

雇用保険料率引き上げの背景には、雇用保険の財源不足がある。新型コロナ禍で雇用を下支えするため、一定の要件を満たす事業主には「雇用調整助成金」を給付してきた。2022年12月16日までの支給決定額は、6兆2,400億円を超えている。

雇用調整助成金は雇用保険の積立金を一部財源としているため、2020年度以降、積立金残高が大幅に減少している。2019年度には約4兆4,800億円あったが、2022年度は8,500億円まで減る見込みだ。

雇用保険の財政悪化を改善し、積立金残高を一定の水準に戻すため、雇用保険料率が引き上げられることになった。

雇用保険料率の推移

雇用保険料率の法律上の本則は1.55%(労働者0.6%、事業主0.95%)だ。ただし、財政状況に照らして一定の要件を満たす場合は、厚生労働大臣が変更できることになっている。

新型コロナ禍の前は失業率が低く、積立金残高も潤沢であったことから、雇用保険料率が引き下げられていた。しかし、2022年の雇用保険法改正によって、2022年度に限り、激変緩和措置として以下のように雇用保険料率が段階的に引き上げられている。

【雇用保険料率の推移(一般の事業)】
労働者負担(①) 事業主負担(②) 雇用保険料率(①+②)
2021年度 0.3% 0.6% 0.9%
2022年4月~2022年9月 0.3% 0.65% 0.95%
2022年10月~2023年3月 0.5% 0.85% 1.35%
2023年4月以降(予定) 0.6% 0.95% 1.55%

雇用保険料率引き上げが予定通り実施されれば、2023年4月以降は法律上の本則の雇用保険料率に戻ることになる。

雇用保険料引き上げで手取りはどれくらい減るのか

2023年4月から雇用保険料率が引き上げられた場合、労働者負担は0.1%増える。手取りがいくら減るかは、収入によって変わってくる。

仮に月給30万円なら月300円(30万円×0.1%)、1年間で3,600円の負担増だ。月給50万円なら月500円、年間6,000円負担が増える。ただし、雇用保険は給与だけでなく、賞与も対象となるため、実際の負担額はさらに増えるだろう。

また、現行の雇用保険料率からは0.1%増だが、2021年度に比べると0.3%増となる。月給30万円なら月900円(年間1万800円)、月給50万円なら月1,500円(年間1万8,000円)、2021年よりも手取り額が減ることになる。

2022年に入ってからは物価上昇が続いており、家計への負担は増えるばかりだ。1ヵ月あたりの手取り減少額はそれほど多くないかもしれないが、積み上がると決して少なくない負担といえるだろう。

雇用保険料引き上げへの対策

雇用保険料引き上げによる手取り額の減少に備えるには、以下の2つに取り組むのがおすすめだ。

・家計を見直して無駄な支出を減らす
・投資を始める

まずは家計を見直して、無駄な支出を減らすことを心掛けよう。仮に月1万円支出を減らすことができれば、手取り額が月1万円増えるのと同じ効果を得られる。食費などの変動費よりも、「保険料」「スマホ代」「教育費」「サブスクリプション(定額サービス)」などの固定費を見直すほうが節約効果は大きいだろう。

また、投資を始めるのも有効な対策といえる。預貯金は元本が保証されているが、物価が上昇するとその価値が実質的に目減りする。物価が上がれば、同じものを買うのにより多くのお金が必要になるからだ。

一方、投資信託などの金融商品は、価格が変動するため物価上昇に強い傾向にある。相場によっては損失が生じる可能性もあるので、無理のない範囲で投資を始めてみよう。

まとめ

2023年4月から雇用保険料率が引き上げられると、給与や賞与から差し引かれる金額が増え、今よりも手取り額が減ってしまう。手取り額の減少に備えるなら、家計の見直しや投資に取り組むことを検討しよう。

文・MONEY TIMES編集部

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