日本の計画経済化
基本方針(案)ではGX経済移行債を発行するのは「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現するためだ、としている。そして、この巨額の投資を、「規制・制度的措置」と一体的な政府の「投資促進策」によって実現するとしている。これは果たして妥当だろうか:
この金額の規模から言って、特にエネルギーの生産・消費に関連する投資には、事実上、ことごとく政府が関与することになるのではないか。
どの技術に投資するか政府が決定するというのは、計画経済である。これでは経済成長は望めない。政府主導で、高コストで世界に売れない技術ばかりが推進されることになるのではないか。
財務省や政治家は、本来なら150兆円、20兆円といった巨額の予算の妥当性や、新しい政府機関である「機構」の設立といった提案に敏感に反応して、大いに議論すべきだ。だが未だ出来ていないようだ。
10年間で150兆円といえば年間15兆円だからGDPの3%である。防衛費を2%に上げるために国会は揺れているが、実は防衛費よりも温暖化対策の方が巨額の費用の話になっている。
また「機構」を設立して累計20兆円のカーボンプライシングを管理運営させるというのは、年間1兆円規模の新たな特別会計と政府外郭団体を造るというのに等しい。
このような重大な意思決定である割には、公開の場でまともな議論が殆どなされていない。
「GX実現に向けた基本方針」の訂正に向けて以上、問題点を縷々のべてきたが、官邸が主導してきた案なので、今更ゼロクリアすることは考えにくい。そこで、通常国会で修正するとしたらどうすべきか考えてみる。
まず現行の案でも、具体的な事業の選定についてはPDCAを回すことになっているから、これを着実に実施する体制を作ることが重要だろう:
事業の効果として、費用対効果をきちんと分析すれば、再エネの大量導入などありえないだろう。他方で、原子力や核融合を推進するためであれば、安定安価なエネルギー供給と経済成長に資するという目的に合致するから、国債を発行してもよかろう。
ただしカーボンプライシングや「GX経済移行推進機構」は要らない。
「GX経済移行債」はGXと冠することは止め、国債発行による投資は原子力など経済成長に資するものに限ることとして、建設国債と同様に一般財源で償還すればよい。 従って償還財源としてのカーボンプライシングは要らない。 カーボンプライシングを管理する「GX経済移行推進機構」も要らない。
最後に一言。基本方針(案)の冒頭に以下の記述があるが、これは科学的に正しくないので削除すべきである:
異常気象の「増加」はそもそも観測されていない。「大規模な自然災害の増加」は経済成長による被害金額の増大だけであり、気候変動との関係はない。
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