GX経済移行債とカーボンプライシング
基本方針(案)には、更に重大な問題がある。実施体制である。
今回のプロセスでは、広く議論がされることなく、具体的な制度設計に関する重要な事項まで「基本方針(案)」に提示されている。
まずは「GX経済移行債」。
「10年間で150兆円を超えるGX投資」を実現するため、「20兆円のGX経済移行債」を発行する、としている:
GX経済移行債は「カーボンプライシングで償還する」となっている。
だがこれは問題だらけだ。
まず、論理矛盾である。GX経済移行債で経済成長が出来ると言うなら、法人税・所得税・消費税などにより一般財源の増収があるはずで、それで償還できるからだ。これは建設国債と全く同じ話である。本当にGX実行戦略が経済成長をもたらすなら特別な償還財源など要らないはずだ。
それに、カーボンプライシングは前述の「安定安価なエネルギー供給を図る」という基本方針(案)の目的にもそぐわない。
そもそも「GX経済移行債」20兆円が、本当に、経済成長に資すると政府は思っているのだろうか。再エネの大量導入などでエネルギー価格が高騰した上に、カーボンプライシングの負担まで増えることになるとすれば、日本経済は沈んでしまうのではないか。じつは経済成長しないと感づいているから、カーボンプライシングで償還するなどと言っているのだろうか。だとすれば国民を欺いていることになる。
「GX経済移行推進機構」の設立なお一層心配なのは、このカーボンプライシングの制度についてである。
基本方針(案)では、カーボンプライシングとは化石燃料への賦課金および排出量取引制度であるとして、それを管理するために「GX経済移行推進機構」を創設する、としている:
欧州の先例をみても、排出量取引制度は複雑化する傾向にあるため、導入すればどうしても行政の負担が増す。そこで新たな機構を作る必要が生じる、という論理は、一応はありうるだろう。
だがその一方で、重大な問題が生じる。かかる「機構」を作れば、行政の本能として、この機構を維持・拡大しようとするようになるのではないか。そのためにカーボンプライシング制度が存続し強化されるとなれば、本末顛倒となる。安定・安価なエネルギーも経済成長も望めない。
そもそも排出量取引制度は、欧州がその典型例だが、失敗の連続だった。行政が肥大化し、排出権割り当てのルール変更が延々と続き、価格は不安定なままだった。なぜ日本が追随する必要があるのか。
またGXと銘打っている以上、その活動内容は国際的なグリーン投資のガイドラインに束縛されることになるだろう。ところが、何がグリーンかという内容はその時々で、特に欧州の政治状況に影響されてころころ変わる。例えば、またぞろ「原子力はグリーンではない」などルール変更をするかもしれない。これでは経済成長に資するという目的を果たすことはますます難しくなる。