岡山県倉敷市の中心部には、倉敷川の両岸になまこ壁の蔵が並ぶ「倉敷美観地区」があります。その一角にある「大原美術館」の歴史は古く、1930年に地元の実業家・大原孫三郎によって開館しました。西洋美術を中心に扱った私設の美術館としては、日本最古の歴史を誇るこの大原美術館。その館内や見どころをご案内します。 ※館内は写真撮影禁止です。今回は撮影を特別に許可いただきました。

目次
1. 大原美術館とは?日本で最初の西洋美術館
2. 大原美術館本館の主な見どころ
 2.1 エル・グレコの『受胎告知』
 2.2 クロード・モネの『睡蓮』
 2.3 美しい丸窓
 2.4 順路を進むにつれて新しい年代の作品が見られる作り
 2.5 現代美術や東洋美術も充実
3. 大原美術館は彫刻・陶器・版画・石仏なども
 3.1 彫刻、工芸品も充実:ロダンの『洗礼者ヨハネ』
 3.2 『カレーの市民ージャン・デール』
 3.3 美しいステンドグラスも!工芸・東洋館は建物にも注目
4. 大原美術館の自宅庭園に咲くクロード・モネの「睡蓮」
5. 大原美術館分館では岸田劉生の『麗子』に逢える
6. 大原美術館はさまざまなイベントを楽しめるのも魅力
 6.1 モーニングツアー・イブニングツアー
 6.2 年1回2日間!アートのお祭り「チルミュ」
 6.3 有隣荘一般公開
 6.4 ギャラリーコンサート(ベヒシュタインのピアノが聴ける!)
7. かわいいアイテムがたくさん!ミュージアムショップもチェック
8. 大原美術館をもっと楽しむために知っておきたいサービスと注意点
 8.1 手荷物預かり
 8.2 ボールペンはNG!知っておきたい美術館のマナー
 8.3 見たい作品がある場合は展示状況に注意
9. 大原美術館のチケット情報とオトクに鑑賞する方法
 9.1 事前購入でサッと入場!
 9.2 全館回れなくてもチケットは取っておいて!次回に持ち越せます
 9.3 音声ガイド機器貸し出し
10. 大原美術館がある美観地区を楽しむなら「帰りは路線バス」!
 10.1 徒歩なら倉敷駅から15分
 10.2 路線バスを使って美観地区も楽しもう!

1. 大原美術館とは?日本で最初の西洋美術館

大原美術館にある数々の絵画は大原孫三郎の支援を受けた洋画家、児島虎次郎が買い付けたもの。児島虎次郎は1929年に47歳の若さで亡くなりましたが、その死を悼んだ大原孫三郎は数々の作品を公開するために、当時日本になかった西洋美術館を開館したのです。

【倉敷・観光】大原美術館の見どころを徹底レポート!名画からイベント情報までをお届け
(画像=『たびこふれ』より 引用)

大原孫三郎は起業家としても有名で、「倉敷絹織」など数多くの企業で成功を収めました(現在の「クラレ」。「ミラバケッソ」のCMでおなじみですね)。その製品は液晶テレビの偏光フィルムや携帯電話のプラスティック部品で、いずれも世界シェア80〜100%!

「企業の儲けは社会に還元すべし」との信念を持ち、災害の際には実に1,200人もの孤児を受け入れるなど、まさに桁外れの社会貢献を行なった人物でもあります。美術の世界でも、美術館の設立に留まらず、多くの画家たちの活動を支え、作品を受け継いできました。

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

この美術館では、教科書で見たような有名な作品も、絵の具の陰影がわかるほど間近に見ることができます。部屋によっては作品のみならず、床、調度品全てが作品という空間も。

2. 大原美術館本館の主な見どころ

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

この美術館がなければ、日本に来ることはなかったような貴重な作品が並んでいます。代表的な作品と、楽しみ方のポイントも一緒にご紹介しましょう。

2.1 エル・グレコの『受胎告知』

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

『受胎告知』はクレタ島(現在はギリシャ領)出身の画家、エル・グレコが40年もの長きにわたって制作した作品群。1590年~1603年頃に描かれた1枚が、大原美術館に展示されています。日本で『受胎告知』の作品が見られるのは大原美術館のみ。エル・グレコの作品が見られるのも大原美術館と国立西洋美術館(東京都台東区)のみです。

この作品はひと部屋分の空間が丸々使われるなど、超・特別な待遇で迎えられています。『受胎告知』は様々な作品があり、ものによってはおどろおどろしいものもありますが、大原美術館の聖母マリアはとても穏やかな表情を浮かべています。作品の後ろから光が差し、周囲はふんわりと間接照明で照らされ、まるでそこに聖母マリアと天使ガブリエルがいるかのよう。とても馴染みやすい名画と言えるのではないでしょうか。

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

【楽しみ方のポイント】
空から現れて受胎を告げる天使ガブリエルですが、天使の羽根の付け根が、極端に右肩側(向かって左側)に寄っています。「実際こんな場所に羽根があると、肩が凝って仕方ないでしょうね」などと、ちょっと写実的でない部分に静かにツッコみつつ、「教会の上の方に飾るため、見上げることを想定していたのでは?」などとその背景を考えてみましょう。

今でこそ「16世紀最大の画家」と言われるエル・グレコですが、その豪快すぎる作風もあって、当時の評価はそれほど高くはなかったのだとか。児島虎次郎が1922年に『受胎告知』をパリで買い付けた際も、普通に画廊で売られていたようです(それでも一度、大原孫三郎にお伺いを立てなければならないほどの価格だったそう!)。

偶然に偶然が重なって奇跡的に日本に到着したため、「奇跡の1枚」とも言われる『受胎告知』ですが、戦時中、美術に詳しい将校に「日本に『受胎告知』がある訳がない!絶対偽物だ!」と、接収されるところだったそうです。

2.2 クロード・モネの『睡蓮』

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

<『睡蓮』 クロード・モネ>

大原美術館の本館を入ってすぐの部屋には、クロード・モネの『睡蓮』が展示されています。この絵画は、1922年に児島虎次郎がフランス・ジウェルニーのモネ宅を訪れ、当時80歳を越えていたクロード・モネ本人から直接買い付けたというから驚きです。

児島虎次郎がジヴェルニーを訪れた際、モネはちょうど大作に取り掛かっており、1か月後に絵を譲る約束を交わしたそうです。約束通りに訪れた児島虎次郎に、モネは「日本の画家たちのために」と、『睡蓮』をはじめ、何枚もの絵を用意していました。その中から児島虎次郎が選んだ1枚が、大原美術館で見ることができる『睡蓮』なのです。

モネは自宅に日本庭園を取り入れたり、奥様に和風の着物を着せたりするなど、大の日本好きとして知られていました。児島虎次郎が「お礼に日本から牡丹の苗木を送る」と約束すると、モネはとても喜んだそうです。

【楽しみ方のポイント】
近くまで寄ると淡い水色に見える睡蓮の池ですが、少し離れてみると雲や空が映り込んでいます。その日の空や日差しで表情が変わる、睡蓮の細かいタッチを観察してみましょう。あとで中庭に出ると、モネの自宅から株分けされた睡蓮を見ることができます。本物の睡蓮と見比べるために、ここで絵をしっかり目に焼き付けておいてください!

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

<『かぐわしき大地』 ポール・ゴーギャン>

クロード・モネ『睡蓮』のすぐ近くで異彩を放っているのが、ポール・ゴーギャン『かぐわしき大地』です。モデルはゴーギャンがタヒチに移住した後の妻、テフラであると言われています。絵の左上にいる赤い羽根をつけたトカゲは、彼女にいったい何をささやいたのでしょうか?

ゴーギャンの色鮮やかさに目を惹きつけられ、近くにある『睡蓮』を見逃す人までいるのだとか。実は筆者もご多分に漏れず、「睡蓮」に気づかず通過していました......。名作の見逃し注意!

2.3 美しい丸窓

本館2階にあるアール・デコ調の丸窓は、大原美術館を象徴する名物の一つです。美術館を設計した建築家・薬師寺主計(やくしじ・かずえ)のデザインへのこだわりは、この後もそこここで見ることができます。

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

窓の外に見えるのは、美観地区の運河と石橋、その向こうには古くから紡績を商っていた大原家の旧邸宅。まさに江戸時代の街並みのようです。

丸窓から外を眺めた後は、後ろを振り返ってみましょう。そこには19世紀の西洋の絵画が広がっています。

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

真後ろに見えるのは、フレデリック『万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん』の大作。7枚の絵からなるこの絵画は、1893年から25年もの長きにわたって描き上げられました。本館のこの部屋は、幅11mにも及ぶこの作品にあわせて設計されたと言われています。

2.4 順路を進むにつれて新しい年代の作品が見られる作り

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

エル・グレコの『受胎告知』以外は、順路を進むにつれて新しい年代の作品が見られるようになっています。全館にわたって数字の書かれた番号が記されていますので、それに沿って進みましょう。

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(画像=『たびこふれ』より 引用)

<『積みわら』 クロード・モネ>

【楽しみ方のポイント】
絵画を支えるフレームに注目!本館の油絵は、フレームが頑丈かつ豪華になっています。
年代が新しくなるにつれてフレームは細くなり、ついにはキャンバスのみに。果てはキャンバス自体を切り裂いて作品にしたものまで、見た人の頭脳に、容赦なく疑問符を突きつけてきます。

2.5 現代美術や東洋美術も充実

大原美術館は、長い歴史の中でその時代ごとの「現代」美術も取り入れてきました。
大原孫三郎の後を受け継いだ大原總一郎(大原孫三郎の長男)は、「美術館は生きて成長していくもの」との名言を残し、近代絵画の名品や、戦後の前衛画家たちの作品も取り入れ積極的に公開してきました。その流れは孫三郎の曾孫にあたる、大原あかね理事長の下でも変わっていません。