ライバーの「素」にニーズはあるか?

SHOWROOMの売りとしてライバーの素顔が見られると説明されることも多い。配信はライバーの自宅で行われることも多く、素の姿が見られることは間違いないと思うが、有名なタレントやアイドルではなく無名ライバーの素が楽しいのか? 見知らぬ女の子が自宅でただ雑談をしている映像が楽しいのか? 華やかな姿を見る前に素顔を見る事が楽しいのか?と考えると、繰り返しになるが「楽しむにはハードルが高い」。

SHOWROOMならば「乃木坂の〇〇さんが好きだから配信を見よう」と有名なタレントやアイドルがきっかけで使い始める人は多いと思うが、お目当てのライバー以外の配信をまったく見ていない人も多いのではないか。

AKB48の大西桃香さんは、SHOWROOMで毎朝5時半から665日間連続で配信を続けた。それがきっかけで知名度を上げて多数のファンを獲得し「5時半の女」と呼ばれるまでになったという。決して朝に強いわけではなく、それでも「寝坊したらまとめサイトで『【悲報】朝5時半の女、ついに遅刻www』みたいに書かれてしまう」という危機感からライブ配信を継続したという。

(参照)努力が続かないポンコツ3人組に“努力のプロ”倉持由香×大西桃香がガチコンサル!新R25 2018.11.16

早朝の配信をすっぴんで行った際にはむしろそれが良いとファンは反応してくれたとも話している。このエピソードは完成品より成長過程を見せる高校野球のようなAKBのコンセプトと、SHOWROOMのスタイルが上手く重なった事例だと思うが、大西さんがAKBという人気グループのアイドルだからこそ素の姿にギャップとして魅力を感じた人がいる、という事になるだろう。

結局は「推しライバー」が見つかる前にアプリを使わなくなる、あるいはお目当ての有名なアイドルやタレントだけを見る、という形に落ち着く可能性は非常に高い。やはりハードルは高い。

SHOWROOMの台所事情~「イベント」という仕入れコスト~

これらの高いハードルを越えてお気に入りのライバーが見つかり、フォローをして配信を見よう、と思うところまでユーザーが進んだとする。そこで発生するのが冒頭でも書いたSHOWROOM個別の問題だ。

ライブ配信は無料で視聴可能だ。しかし無課金で見られたら利益にならない。SHOWROOMとしては有料のギフトを買って投げ銭を投げてほしい。しかし無料で見られる配信にあえてお金を投じる人はどれだけいるか。

これはまさに投げ銭の語源にもなっている、ストリートミュージシャンにお金=投げ銭を払うか?という話と全く同じだ。ライバーにとって収入にならなければ配信を続けられず、SHOWROOMの売上も立たない。そこでSHOWROOMの提供するものが「イベント」だ。

SHOWROOMでは「イベント」とか「ガチイベ」というワードが飛び交っている。これは勝利すると賞品として企業の広告やファッション誌、テレビ、ファッションショー等に出演出来るといった、仕事を獲得できるものだ。

タレントやアイドルを目指す人にとって一番ほしいものはお金やモノ以上に仕事だろう。声優としての採用、アニメの主題歌、企業のイメージモデルなどイベントによって様々だ。

勝利条件はイベントに参加したライバーの中で、ギフトをいかにたくさん集めたかにより決まる。リスナーはより高額なギフトを投げれば応援するライバーが檜舞台に出られる、ということでギフトを投げるインセンティブが生まれる。

筆者は当初、勝利者はファッション誌にモデルとして出られる、というイベントを見た際に「ファッション誌がSHOWROOMでイベントを開催すれば知名度も上がるし、人気ライバーにモデルとして出演して貰えば売り上げがアップするかもしれないし、こういう形で企業から広告料を受け取ってるのか。しかもリスナーは『推しライバー』を応援するためにギフトを買う……中々上手い仕組みだ」と、完全に「勘違い」していた。

実際はその逆で、リスナーやライバーにたくさん配信をして貰うための「目標」として、SHOWROOMが広告料を払って各種メディアの出演権等を賞品としたイベントを開催している。いうなれば売上を得るための「仕入れ」だ。しかもその仕入れコストは、他のライブ配信アプリと競合・奪い合いで増えてしまい利益が減っていた。これが2020年のインタビューで社長の前田裕二氏が語っていたことだ。

そんな仕組みだったの?と思わずズッコケてしまいそうになったが、この話には続きがある。

ライバーがSHOWROOMで人気を獲得するとSHOWROOMだけでは満足せず次のステップとしてテレビや映画、雑誌、ファッションショーなどを目指すことは想定外だった、加えてライバーの目標となるイベントでファッション誌やテレビなど外部のメディアに依存することはビジネスモデルとして脆弱である……このように考えた結果、自社でショート動画のメディアを作る(後の「smash.」)、そこは簡単には出演できず、出演することが憧れになるような場所にする、と前田氏は語っていた。 (参照)SHOWROOM「前田裕二」は今何を考えているのか 東洋経済オンライン 2020/01/19

外注は割高かつコントロールが出来ないので内製する、という考え方は経営者目線では間違っていない。果たしてこの試みは成功したのか。

(次回に続く)