動画を生で配信する。

この機能は冒頭の指摘通り様々なサービスで提供されており、投げ銭の仕組みはインスタグラムやYoutubeにもある。根本的な違いはコンテンツの内容だ。

Youtubeは特に分かりやすいが、通常の動画も生放送のライブ配信も何かしらの「コンテンツ」であることが普通だ。プロアマ問わず、歌や演奏、ゲーム配信、お笑い、セミナーなど、ありとあらゆるコンテンツがある。

一方でライブ配信はファンとの交流が最大の目的となっている。もちろん、アイドルやミュージシャンが配信で歌や演奏を提供する事はごく普通に行われている。それでもファンとの交流が最大の目的と言える理由はリスナーが書き込むコメントの扱い方にある。

唯一のコミュニケーション手段であるコメントを、ほとんどのライバーは原則として必ず読み上げて回答する。その程度が最大の特徴?と思ったかもしれないが、たとえば演奏中でもコメントを読み上げるライバーは珍しくない、と言えばコミュニケーションがどれだけ優先されているか分かるだろう。

ピアノやギターならまだしも、口がふさがる管楽器や歌の最中でも息継ぎのタイミングでコメントを読み上げたりギフトにお礼をするケースもある。窒息しないか心配になってしまうほどだが、特殊技能と言えるほど巧みにコメントを読み上げギフトのお礼をするライバーも多い。

配信開始時には通知を見たリスナーが一気に訪れて挨拶を書き込む事から、配信の冒頭は「〇〇さん、おはよう!」「〇〇さん、来てくれてありがとう!」といったコメント返しだけで相当な時間が掛かる(ただし読みきれないほどコメントが多数書き込まれる人気アイドル等はこの限りではない)。

これもSHOWROOMに限らずライブ配信アプリの特徴だ。歌や演奏などコンテンツを楽しむことを目的に行われるYoutube等との大きな違いはここだ。別の言い方すれば「コミュニケーションがコンテンツ」で、これはライブ配信アプリ独特の文化と言える。

「投げ銭」もコミュニケーションである。

投げ銭を投げること(ライバーにとっては投げ銭を受け取ること)もコミュニケーションに含まれる。ライブ配信は無料で見られることから、投げ銭はコンテンツの対価ではなく応援のため、つまりコミュニケーションとして投げられる。これも大きな特徴の一つだ。

応援のためにお金を払うなんてただの搾取じゃないか、という批判は当然ある。ライブ配信が嫌いとか受け付けないという人はこの辺りが原因だろう。これはAKB48や乃木坂46が握手会商法と揶揄されることに近い。

「握手会はアイドルと握手出来るメリットがまだあるが、投げ銭はお金を払って終わりで何の見返りも無い。握手会より酷い仕組みだ」

こんな趣旨の記事を随分前に読んだ記憶がある。個人的にはそういう視点もあるのね、まあ本人が納得してるなら別に良いのでは?程度に考えていたが、現在では「推し活」という言葉が使われるようになり「応援する事を楽しむ」という視点が多少理解されるようになった。

推し活の発想がなかった頃は応援したアイドルが活躍することが見返りといった説明もあったが、投げ銭も推し活の一種、応援して楽しいことが見返り、という説明になるだろう。

コロナ禍で経営の大変な飲食店で食事をしようといった話もこれと同じだろう。食事という具体的なモノを介しているとはいえ、そこに「応援」という言葉が使われることは従来はほとんど無かった。

「お金を払うことは最大の応援であり、コミュニケーションである」と改めて説明すれば(賛否は別に)投げ銭の意味も多少は伝わるのではないかと思う。

ライブ配信アプリのハードルの高さ

ライブ配信アプリの存在意義・コンテンツはファンとの交流である、投げ銭もライバーへの応援=コミュニケーションである……という説明を読んで「それって楽しいの?」と思った人も多いだろう。

おそらくここがライブ配信アプリを楽しめるかどうかの境目であり、同時にライブ配信が一般的にならない最大の理由だ。要するにマニアック、柔らかく言えば「ライブ配信を楽しむことはハードルが高い」ということだ。

コロナ禍でアイドルの握手会はネット上に移行しており、ネット上のやり取りでも好きなアイドルとコミュニケーションを取れるのならファンにとっては楽しいイベントだろう。乃木坂46のメンバーがコメントに回答してくれると説明すれば納得してくれるようにも思うが、前述の通り人気アイドルの場合はコメント返しをしない人も多い。

SHOWROOMでも有名なアイドルやタレントを除けば、無名のライバーが多数配信をしている。演奏や歌など分かりやすいコンテンツならば初見のリスナーでも楽しむ余地はあるかもしれないが、筆者が見る限りもっとも多い配信スタイルはただ話をするだけの「雑談配信」と呼ばれるものだ。

筆者が初めてSHOWROOMを見た時は、喋ってるだけの人って何なの? 何がしたいの? それを見てるリスナーは何が楽しいの? と不思議でしょうがなかった。話術に長けた人もいると思うが、その多くが素人であることからトークだけで楽しませるレベルには到達していない。

可愛い配信者を眺めているだけで楽しい人もいると思うが、それならば冒頭の指摘の通りYoutubeやテレビでも十分ともいえる。どうやって楽しんで良いか分からない……この点については「楽しむにはハードルが高い」という説明になる。