相続税には基礎控除や特例、軽減措置があり、自ら申請をすることで税負担を軽減できます。相続税の仕組みや制度を知らずに相続税の申告を進めると、税金を払い過ぎるおそれがあります。相続人が知っておくべき税金対策と注意点を解説します。
目次
相続税を必要以上に払い過ぎないために
・基礎控除額の仕組みを把握
・二次相続まで考慮する
・相続発生時にもめないよう対策する
相続税対策の注意点
・更正の請求は簡単ではない
・過度な税金対策は否認のリスクも
相続税を必要以上に払い過ぎないために
故人(被相続人)の財産を相続により受け継いだ際、財産に対して相続税がかかります。相続税は必ず発生するものではありませんが、財産総額が大きいほど納める税額は高くなります。必要以上に払い過ぎないためにも、相続税の基本的なルールを理解しましょう。
基礎控除額の仕組みを把握
相続税には「基礎控除額」という控除枠があります。相続した財産から、葬式費用や債務などを差し引いた額が基礎控除額を上回らなければ、相続税はかかりません。基礎控除額は以下の計算によって算出します。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
養子縁組をした場合は、養子も法定相続人として扱われます。「養子を増やせば税負担が軽くなるのでは?」と考える人もいますが、法定相続人に含められる養子の数には以下のように限りがあります。
- 被相続人に実子がいる場合:1人まで
- 被相続人に実子がいない場合:2人まで
なお、特別養子縁組によって養子となった人は実の子と同じ扱いになり、法定相続人に含まれます。
参考:No.4170 相続人の中に養子がいるとき|国税庁
二次相続まで考慮する
二次相続とは、一次相続で相続人となった人が亡くなった場合に発生する相続です。家族構成が両親と子の場合、父親が亡くなると母親と子に財産が相続されます(一次相続)。次に母親が亡くなると、母親の財産が子に引き継がれます(二次相続)。
二次相続では法定相続人の数が少なくなるため、相続税の負担が重くなるのが通常です。
配偶者である母親は「配偶者の税額の軽減」によって税額が抑えられますが、税額軽減によって母親の財産が増えれば、将来的には子どもの相続税が増える可能性があるでしょう。値上がりが予想される土地や収益物件を母親が引き継ぐと、財産はさらに増加する可能性があります。
一次相続の際は二次相続の税負担も考慮して、誰が何を引き継ぐかを決める必要があります。価値の上昇が見込まれるものは子どもに引き継がせ、価値が下がりそうなものは母親が引き継ぐという方法も有効です。
相続発生時にもめないよう対策する
遺言書がない場合、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰が何を引き継ぐかを話し合う必要があります。
遺産分割協議に期限はありませんが、相続税の申告期限までに話し合いがまとまらない場合は、法定相続分(民法で定められた相続割合)で分割したと仮定して、相続税の申告・納税を行うのが原則です。
本来であれば「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などが適用され、税負担が軽減される可能性がありますが、分割の行われていない財産については特例が適用できません。
分割が行われたあとに「更正の請求」をすれば税金の還付が受けられるものの、手続きには手間がかかります。遺産分割協議を相続税の申告期限までに間に合わせるためにも、生前から相続について話し合っておくことが大切です。
相続税対策の注意点
身内が亡くなると葬儀や法事などで慌ただしくなります。相続税以外の手続きも行わなければならないため、段取りよく作業を進めないと「相続税の申告期限を過ぎていた」という事態になりかねません。
もめ事を回避しながら、スムーズに手続きを進めるための注意点を解説します。
更正の請求は簡単ではない
納めた相続税が本来支払うべき相続税額よりも多かった場合、相続税の減額請求を行えます(更正の請求)。請求期限は相続税の申告期限から原則5年で、期限を過ぎると税金の還付は受けられません。
更正の請求時は、更正の請求書や更正の請求理由を証明する書類などを税務署に提出しなければならず、時間も手間もかかります。
税金の払い過ぎを未然に防ぐためにも、「相続税の更正の請求が発生しやすいケース」を事前に把握しておきましょう。以下はその一例です。
- 未分割の財産が分割され、特例・軽減措置が適用される場合
- 未分割の財産が見つかった場合
- 遺言書が見つかった場合
- 納税後に相続人に変更があった場合
- 遺留分侵害請求権による返還があった場合
過度な税金対策は否認のリスクも
相続したタワーマンションを路線価方式で評価して相続税申告をしたところ、「著しく不適当」として評価方法が否認され、多額の追徴課税が発生した判例があります。
被相続人の財産の価額は国税庁が定める「財産評価基本通達(以下、評基通)」によって評価するのが一般的で、土地の評価方法には路線価方式と倍率方式があります。
タワーマンションは評基通で評価される相続税評価額と時価(市場価額)の差が大きいことで知られており、この差を利用して税金を減らそうとする人が多いのが実情です。
裁判で「著しく不適当」とされた基準ははっきりしていませんが、不動産の評価や相続税の申告を行う際は、税理士や税理士登録をしている弁護士に相談するのが賢明でしょう。