東京をはじめとする大都市と地方の物価を比べると、地方が安いというイメージは根強い。確かに、賃貸のアパートやマンションは地価がそのまま賃料に反映されるので、大都市の方が高くなり、毎月の生活費を上昇させる。ただ、分野によっては大都市の方が安価で商品・サービスが手に入れられるケースも少なくない。

東京の物価、全国平均に「プラス5%」

2020年に総務省統計局が実施した「小売物価統計調査」によると、消費者物価の地域差指数は最も高い東京都と最も低い宮崎県の差が10%だった。全国平均と比べても、東京都の物価の差は5%となっている。

「5%」「10%」の違いが家計にとって大きいか小さいかという評価は、人によって見方が異なるだろう。しかし、1つ言えそうなのは「東京で生活するには金がかかる」という一般的なイメージからすると、やや拍子抜けほど全国との差は大きくないということだ。

これほど差が小さいのに「東京の物価は高い」という印象が根付いている背景には、地方と比べて特に高い生活費の項目があるからだ。

例えば、前述の通り、東京都の住居費は全国平均と比べ、34%も多くて極端に高い。34%ということは、仮に地方で1カ月分の家賃6万円の部屋に住んでいるとして、それと同水準の物件を東京都で借りれば8万円になるということ。年間で見ると24万円の増加になる。

もっとも、これは「東京都」の数字であり、23区内に限れば、さらに住居費が跳ね上がるだろう。東京と地方の生活費に大きな差が出るのは、主にこの住居費だと言えそうだ。

住居費に加え、交通費も高い東京

東京の交通・通信費は全国平均よりも5%ほど高い。これは住居費と同じく土地の価格が高いことに起因し、自動車の駐車場代が全国的な相場よりもかなり高いことに原因がある。

教養・娯楽費も全国平均より5%ほど高い。東京には書店や娯楽施設が多く、日常生活の中で、他の地域と比べて出費が多くなりやすい環境が影響しているとみられる。また、子どもの教育費も高い傾向にある。これは習い事などに熱心に通わせる親が多いことから高めの数字が出たとみられ、全ての家庭に必要不可欠な出費とは言えず「東京に住んでいるから高い」という性質のものではなさそうだ。

このように、東京に住むと高くなるのは家賃や住宅ローンなどの住居費をはじめ、交通費や娯楽費だということが分かる。

電車、バス代は東京の方が割安

もっとも、同じ交通費であっても、東京の方が安い場合もある。

その1つが電車代やバス代だ。電車やバスは1編成(車両)当たりに乗れる人数が決まっている。その割に、何人が乗っても運行の費用はさほど変わらない。よって、日常的に利用する人が多ければ多いほど、安い運賃で走っても元がとれるようになる。

この点、地方では時間帯によってほとんど乗客がいない路線も多い。一方、東京では通勤時間帯に大混雑し、日中や深夜でもそれなりの人数が利用する。そのため、運賃は抑えられやすい。地方では電車やバスへの支出よりも自家用車のガソリン代を多く費やす家庭も多いが、このガソリン代は世界情勢の変化に合わせて急騰することもあり、悩みの種となる。

同じ交通機関でも、タクシーはやや事情が異なる。全国ハイヤー・タクシー連合会のホームページによると、東京都区部のタクシーの下限運賃は初乗りが1.096㎞まで470円となっている。

「初乗り」に該当する距離は地域ごとに異なるので比べにくいが、例えば地方主要都市の1つ、札幌市は1.463キロまで610円。都道府県別の人口が最も少ない鳥取県は中型車が1.5キロまで610円だ。近距離の移動であれば東京のタクシーの方が支出は減る。

2021年分の小売物価統計調査年報によると、食料や光熱、住居など「10大費目」について消費者物価の地域間格差を指数化した場合、東京都は「光熱・水道」のみで全国平均を下回った。

東京は食料が必ずしも高くない

「食料」の指数は102.8で、石川、福井、沖縄各県より低く、山形県や徳島県と同水準となる。

食料は産地に近ければ近いほど流通コストが抑えられるため、小売価格が安くなると見込まれる。地方ではそうした傾向がみられるが、東京都にはその理屈が当てはまりそうにない。そう考えると、大きなマーケットを抱える東京都内では小売業者の競争が激しくなり、価格もやや抑制される傾向にあるとみられる。

費目ごとの見直しが重要

この調査で、東京都は「被服及び履物」の指数が102.0で、北海道や栃木県、石川県、長野県、長崎県などより低かった。店によって価格が異なる食品や条件によって差が大きな住居費と異なり、チェーン店化が進んだ今、同じ洋服は全国どこでも同じ金額で手に入るため、地域差は小さい。

そう考えると、被服費が高くなるかどうかは、住んでいる地域で違うというより、ライフスタイルや価値観によって変わってくる。これは前述の教育費も同じだ。

全国的に物価高になっている昨今、自分の支出は、居住地域に依存するため大きいのも仕方ないのか、実は単に使い過ぎているために大きくなっているのか、費目ごとに見つめ直すのも大切かも知れない。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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