2022年は北朝鮮が日本海へ向けて頻繁にミサイルを発射し、何度も緊張感が走った。発射回数は過去最多を更新しており、発射にかかる費用も膨れ上がっているはず。ロシアのウクライナ侵攻で軍事の重要性が見直される一方、長期化する新型コロナウイルス禍への対応で各国の財政が圧迫される中、北朝鮮の現状を探ってみる。

2022年12月に入っても発射

北朝鮮は2022年12月18日午前11時52分ごろ、弾道ミサイル2発を発射した。いずれも日本海の、日本のEEZ(排他的経済水域)の外側に落下したと推定されている。北朝鮮は1カ月前の11月18日にもミサイルを発射していた。

NHKの報道によると、ミサイルは北朝鮮の西岸付近から、東の方向へ発射された。いずれも最高の高度は550キロ程度で、飛行距離はおよそ500キロだった。通常の軌道で飛行し、日本のEEZの外側の日本海に落下したとされている。

日本の船舶や航空機への被害の情報は入っていないものの、日本海は恰好の漁場でもあり、時期や海域によっては漁船も多く航行する。そこにランダムにミサイルを打たれれば、いつ、どんな惨事が起こってもおかしくない、極めて危険な状態である。

発射回数は年間で39回に

スポーツ紙「サンスポ」が2022年12月8日に配信した記事によると、韓国政府のシンクタンク(研究機関)の「統一研究院」は同日、北朝鮮がミサイルを発射した回数が年間39回で過去最多となっているといわれている。

公式記録がある1984年以降の40年近い期間で、ミサイルの発射と核実験は計183回あった。このうち39回が2022年ということで、歴代の発射回数の2割強を占めている。

少し以前のデータになるが、共同通信による2022年6月29日の記事によると、韓国国防省傘下の韓国国防研究院は、2022年1月1日~6月5日に北朝鮮が発射したミサイル33発のうち、大陸間弾道ミサイルが6発、中距離弾道ミサイルが1発、短距離弾道ミサイルが26発だったと集計した。

記事では、北朝鮮が2022年に入ってからの半年弱で発射したミサイルの費用は4億~6億5,000万ドル(約540億~約870億円)に上ると紹介。その後も発射が続いていることを考えると、2022年中の費用は1,000億円を上回ると言って間違いなさそうだ。

ちなみに、費用のうち最も多くを占めるのが材料費で、韓国国防研究所は全体の5~8割に当たる2億800万~3億2,500万ドルが材料費だったと分析している。

軍事費はGDP比で世界一の高さ

韓国の日刊紙「中央日報」によると、2019年の北朝鮮の軍事費支出額は43億1,000万ドル~110億ドルと見込まれる。北朝鮮の軍事費はGDP(国内総生産)比で25%ほどであり、世界で最も高い状態にあるといわれている。

GDP比でみた軍事費の比率は、①GDPが低い、②軍事費が高い、のいずれかの要因によって高まる。北朝鮮の場合は①、②の両方に該当しそうだ。

ミサイル費用は1,000億円、「全人民ワクチン」が可能だった

北朝鮮の人口は2020年時点で2,578万人だった。ここで前述のミサイル発射費用「1,000億円」がどれぐらいのインパクトを持つかと言うと、全国民が新型コロナウイルス用ワクチンを1回ずつ接種できる計算になるという見方もある。

1回当たりの接種費やワクチンの販売料金は3,000円台であることを考えると、1,000億円で「全人民ワクチン接種」が可能であった。

北朝鮮は2022年8月末以降、ようやくワクチンの接種を始めた。読売新聞の報道によれば、それまで北朝鮮は米国製のワクチンしか信用せず、2021年中はワクチンを共同購入・分配する国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」から割り当てられた中国製ワクチンの受け取りを拒否していた。

ところが、2022年春から国内で感染が拡大したことを受け、方針を転換。首都の平壌(ピョンヤン)や中国との間の陸上貿易拠点である 新義州(シンウィジュ)をはじめとした国境地帯、国際貨物の受け入れ港がある南浦(ナムポ)で接種を始めた。

結局のところ、使用するワクチンは中国製とロシア製となった。2023年1月末までに全住民への接種を終える計画という。

記事によると、北朝鮮でワクチンの接種開始が遅れた背景には生産国に関するこだわりがあったようだ。だが、ワクチンは1度だけ打っても効果が永続するわけではなく、定期的に打つ必要がある。そうなると、決して豊かとは言えない北朝鮮の財政にとっては、大きな重しになりかねない。

軍事費が一定程度は必要だとしても

隣国である韓国との緊張関係を考えれば、国防費は一定程度以上に必要だとしても、この世界的に感染症が拡大している時代に、さほど裕福ではない国が、日本海にミサイルを撃ち込むという行為を優先すべきなのだろうか。

他国のことに口を挟んでも仕方ないが、民主主義国家なら国民の理解が得られずに大きな波紋を呼びそうな話だ。これがまかり通るあたり、独裁国家ならではの予算の使い方と言える。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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