ラポールの原理実践方法
前章でご紹介した原理原則は、あくまでも「心構え」です。
この心構えを、いかに日常のビジネスの現場で活用できるかが大事です。それでは、明日からでもすぐにできる実践方法「ペーシング」をご紹介します。
ペーシングとは、コミュニケーションの場において「すぐにその場で」「無理なく」「相手に合わせられるものを合わせる」ことをいいます。具体的には、ラポールの原理の3番目を実践形式にしたものです。
人は、共通項が増えることで安心する生き物だとは先述しましたが、例えば「出身が同じ」「趣味が同じ」「嗜好が同じ」などは共通する確率が低くなりますし、無理に相手の考えに共感してしまうことにもなりかねません。
すぐにその場で無理なく、相手に合わせることができるものを意図的に創り上げるのがペーシングというスキルです。
それでは、コミュニケーションの場において「すぐにその場で」「無理なく」相手に合わせられるものとは何でしょうか。
代表的なものを下記にご紹介します。
①ペース(テンポ、呼吸)
相手の話すペースやテンポは、すぐにその場で無理なく合わせられるものの例です。
イメージは、カラオケで、歌う人のテンポに合わせて手拍子をするようなものです。相手のテンポに合わせて、うなずいたり、相づちを打ったりするなど、テンポや呼吸を合わせることで、相手が本質的な居心地のよさを感じるようになります。
例えば、「あの人と私はフィーリングが合う」という印象の多くは、単純に「ペースが合っている」ことが原因の場合が多いのです。
逆に言えば、ペースが合わないことで、とても居心地の悪さを感じることがあります。よく、「仕事もできるし、能力もあるし、喋りも上手なのに人がついてこない」というリーダーがいますが、その原因が「ペーシングをしていない」ことであるケースも多いです。
②姿勢、表情、しぐさ、など(=目に見えるもの)
よくカフェなどで、仲のよいカップルや友達が、同じ姿勢で話し込んでいる場面を見かけないでしょうか。
人は、心の繋がりができると、同じ姿勢になったり、同じ振る舞いをしたりします。例えば、ラポールが構築されると、こちらが飲み物を一口飲むと、相手もつられて一口飲むようになります。
この同じ姿勢や表情をすることを「ミラーリング」とも言います。ただし、無理に同じ姿勢をとる必要はありません。相手が手を組んでいたら、露骨に手を組むのではなく、自分の両手を前で触れさせておくなどでも構いません。
また、相手の表情がにこやかであれば、こちらも少しだけにこやかに。相手が深刻な表情であれば、こちらも少しだけ深刻そうにするのがおすすめです。
③相手の話したい気持ち
ラポールの原理を知り、具体的な実践方法まで活用すると、相手が安心感を持ってどんどん話してくれます。ここで大事なのが、相手の話したい気持ちにペーシングし、「相手の話を最後まで聴く」ことです。
面白いことに人は、9割方話を聴いてもらっても、最後に少しだけ話を遮られたり、割り込みをされたりすると「この人は話を聴いてくれない人だ」という印象を持ち、ラポールが崩れてしまいます。
ビジネスの現場を見ると、部下の話を遮り、信頼関係を構築できない管理職やリーダーの方は多いように思います。
④相手の言葉
相手の言葉を「そのまま」繰り返すことです。通称「オウム返し」とも言われます。
部下「おはようございます!」
上司「おはよう。今日の調子はどうだい?」
部下「はい。絶好調です!」
上司「よかったなぁ。では今日も一日頑張ろう!」
この何気ない日常の会話の中に、オウム返しを入れると、
部下「おはようございます!」
上司「おはよう。今日の調子はどうだい?」
部下「はい。絶好調です!」
上司「おお!絶好調か! それはよかったなぁ。では今日も一日頑張ろう!」
となります。この「おお!絶好調か!」を入れるだけで、相手は本能的に「この人は、私を受け入れてくれる人だ」という印象を持ちます。
人は「自分の発した言葉と同じ言葉が返ってくる」と、「この人は私を受け止めてくれる」という印象を無意識に持ちます。
特に、以下の内容をオウム返しするとよいでしょう。
・相手の大好きなもの、大切にしているもの
・相手の気持ちや感情の込められているもの
・相手が強調していること