1,000円前後の低い価格で髪を切る「格安カット店」が、路面店や大型商業施設内で増えている。美容業全体を見れば、カットだけで数千円かかるのは当たり前。なぜ、同業者の4分の1、5分の1といった価格でサービスが提供できるのか、そのもうけのカラクリを調べた。

草分けは「QB HOUSE」

カット専門店の草分けは、キュービーネットホールディングス(HD)が展開する「QB HOUSE」となる。同社の公式サイトによると、1996年に国内で初めての「ヘアカット専門店」として、第1号店を東京・神田美土代町にオープン。今も業界最大手の企業であり続けている。

説明文には「余計な手間や無駄を省き、世の中の人々に本当に必要とされる『時間のクオリティ』だけに集中した『お手軽で安心なヘアカットサービス』」というのがテーマで、現在では国内だけでなく、シンガポール、香港、台湾、ニューヨークにも展開しているそうだ。

この説明からは、一般的な美容室が流行の髪型やカラー、パーマなどの「見た目」で多くの価値を提供しようとしているのに対し、キュービーネットHDは「時間」を1つの価値として訴求していることが分かる。

カット時間は平均12分⁉

ここでQB HOUSEのブランドページを見てみると、カットにかかる時間として「平均12分15秒」という数字が紹介されている。この時間から考えると、例えば妻がスーパーで買い物している間に夫がヘアカットをしても、夫のほうが先に用事が終わる、といったことも起こり得る。スキマ時間に気軽に来店できるわけだ。

それだけスピーディーにカットするため、QB HOUSEではスタッフ1人が応対する客の数が多くなる。上記のブランドページによると、一般的な理美容店では1日にカットできる客の人数は8人が平均であるのに対し、QB HOUSEでは30人に上るという。実に4倍の人数に対応するということだ。

以上のことから「なぜ格安カット店はやっていけるのか」「なぜもうかるのか」という問いに、1つの結論が得られる。

格安カット店は、仮にカットを4,000円で提供する美容室の4分の1の価格でサービスを提供しても、客1人にかける時間が4分の1で済み、つまり生産性は4倍の高さとなっている。そうなるとざっくりいえば、一般的な美容室も格安カット店も、時間当たりの売上高はほぼ等しいことになる。

メニュー数は1つのみ

カット専門店の速さの秘密は、1つにメニュー数を絞り込んでいることが挙げられる。例えば、QB HOUSEのブランドページでは、店舗で提供しているメニューについて「1,200円(税込み)のカット」のみだと明記してある。

提供するメニュー数を少なくすると、先々のスケジュールが組みやすい。スタッフにすれば無駄な行動が減るし、上記の例でいえば、15分間隔で新たな客に入れ替わることを想定して客側に待ち時間を伝えられる。来店客が「こんなに混んでいるなら、また今度にしよう」と勝手に諦め、店側が売り上げ機会をロスすることも減る。

メニューをカットだけに絞れば、使う道具も限られる。店舗の内装や設備も必要不可欠なものが減るため、経費を大きく削減でき、出店費用も抑えられる。

メニューを絞り、スタッフの習熟度アップ

これまで述べたように、格安カット店の場合、客が求めるのはスタッフの腕前というより、いわゆる「コストパフォーマンス」になる。極論すると、シェフ個人に客がつく高級レストランとチェーンのファミリーレストランのような違いである。

レストランなら、シェフは一流店で皿洗いや食材の下処理などの厳しい修業からキャリアを始めることが多い。「包丁を握らせてもらえるまで〇年」のような世界だ。

一方、一般的にファミリーレストランの厨房で料理するのは、料理経験がある人ばかりではなく、高校生や大学生のアルバイトも含まれる。料理の下準備は店舗に届く前に工場で施されており、調理方法はマニュアル化されている。どのメニューにどの皿を使うかまで決まっているのだ。

つまり、基本的にはスタッフの創意工夫の余地をなくし、誰が調理しても同じ仕上がりの料理になるように管理している。ひるがえって格安カット店に話を戻すと、メニュー数を絞り、回転率を重視することで、経験の浅いスタッフが習熟までにかかる期間を短縮する効果が狙える。

免許は必要、待遇は標準以上

もっとも、誰でもスタッフとして雇えばよいわけではない。美容師法や理容師法では、仮に対象者の同意があったとしても、免許がなければ「業として」美容師および理容師をしてはならないとされている。

求人サイトを見てみると、正社員・アルバイトとも、基本的には理容師や美容師の資格の保有を求めている。募集情報には「ブランクあり 歓迎」といった文字が散見される。例えば、子育てや転職で理美容業を離れている有資格者を対象としているのだろう。

正社員の給与は月20万円台後半から、アルバイトの時給は1,400円前後が相場のようだ。会社や地域によって差はあれども、世の中の標準的な求人案件から見ると、給与面の待遇はよいようだ。

前述のキュービーネットHDの営業利益率はコロナ前で10%近かった。コロナ禍では売り上げも利益も大きく減ったものの、赤字には陥っていない。何かと「コスパ」という言葉が聞かれる今、低コストで利益を確保しながら出店を続けるビジネスの勢いは、まだまだとどまるところを知らなそうだ。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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