長引く新型コロナウイルス禍で働き方が多様化し、転職を「自分事」として捉える人は増えているだろう。労働市場の流動性が高まれば、キャリアアップのチャンスも多くなるはず。そこで頭の片隅に置いておきたいのが、単なる転職だけではなく、働く地域を変えることで年収アップにつなげる方法もあることだ。

都道府県別の年間賃金、トップと最下位で100万円以上の差

日本国内の47都道府県を見ると、平均賃金の差は歴然としている。

厚生労働省が公表している2021年の「賃金構造基本統計調査 」によると、最も賃金が高かったのは東京都で、364万2,000円だった。2位は神奈川県で336万2,000円、3位は大阪府で326万9,000円となっている。

一方で、最下位は宮崎県で244万6,000円だった。トップの東京都と比べると、実に119万6,000円の差がある。1ヵ月当たり10万円ほど違いがあると考えると、この差はかなり大きいといえそうだ。

地域ごとの差を物語るのは、47都道府県の平均賃金が307万4,000円ということだ。平均値は全ての対象の「真ん中」を指すわけではなく、飛びぬけた存在がいれば、そちらに引っ張られる。極端な例だと、100万円、100万円、1億円の平均値は3,400万円になる。

さて、この平均賃金「307万4,000円」を上回っているのは、前述の3都府県に愛知県と京都府、兵庫県を加えた6都府県のみ。それだけ上位6府県の賃金が高い証しで、他の41道県との格差が大きい証しである。

公務員の給与もトップは東京都

こうして見てみると、年収を上げるには単純に会社を移るよりも、所得水準の高い大都市圏に移り住むことを含めて検討すべきだと思える。上の例でいえば、宮崎県の住民が東京都に移住することは、年間の賃金が1.5倍の世界に飛び込むようなものだからだ。

もっとも、大都市圏には、それ以外の地方にないような企業が集積している。例えば、給与水準が比較的高めの外資系企業、日本の企業であってもグローバルに事業展開していて平均年収が高い大企業などである。

こうした企業で働く人が集計に加われば、前述のように平均値を大きく引っ張り上げることが想定される。それらを集計に含むのは不公平にも見えるだろう。しかも、そうした企業は人気が高く、誰もが容易に転職できるわけではない。

ここで注目したいのが、各都道府県の職員の年収の違いだ。ウェブサイト「ALL Aboutマネー」掲載のコラム によると、各都道府県に勤める地方公務員の平均給与は東京都がトップで、月額46万3,448円だった。2位は神奈川県、3位は大阪府が続く。この上位3都府県の顔ぶれは、上述の各都道府県の賃金と全く同じである。

公務員の給与を見るときに注目したいのが、各種手当のうちの「地域手当」。それぞれの地域の民間企業の賃金水準を公務員の給与に反映させるために支給するもので、これが都道府県全体の賃金順位と公務員の賃金順位がリンクしやすい要因ともいえる。

当然、月額の地域手当が最も大きいのは東京都の6万5,028円で、年間に直すと80万円近くになる。さらに、神奈川県(4万800円)、大阪府(3万9,096円)が続く。

支出との比較では三重や富山が上位に?

この地域手当は民間企業の賃金差を考慮しているわけだが、各地域の物価の差を加味したものともいえる。ここまでは「年収アップ」、つまり収入が多くなる方法を考え、大都市圏の賃金の高さに注目してきたが、実際の生活では収入が高くても支出が多ければ、その分、豊かには暮らせなくなる。

経済産業省の資料 によると、各都道府県で可処分所得(収入から税金や社会保険料を除いた金額)が中位にある世帯の基礎支出(食費や家賃、水道光熱費)が最も多かったのは東京都で、神奈川県、埼玉県、千葉県と続いた。

これを可処分所得との差額で見てみる。簡略化すると、自分で自由に使える収入のうち、その地域で生活するのに必要不可欠な支出を引いた金額を比較することだ。

この指標で見ると、1位は三重県で月々26万4,553円になる。2位は富山県で25万9,642円、3位は茨城県で25万8,190円である。単純な収入のランキングで最上位だった東京都は42位、神奈川県は26位、大阪府は44位という結果になる。

大都市圏では家賃や住宅ローンの支払金額、食費など、毎月必要な支出が地方圏よりも高い傾向にある。その結果、仮に収入は大都市圏が圧倒的に多くても、手元に残る金額では逆転現象が起こってしまうのだ。

自身の特性次第で「最適解」は異なる

こうして地域ごとの収入や支出の関係を見てくると、自身のスキルやライフスタイル、人生観によって、働き方の最適解が異なることが分かる。

例えば、とにかく「年収アップ」を追い求める場合。一般的な相場よりも多くの収入を得られるような高いスキルを持っているなら、大都市圏にしかない大企業や専門的な企業に活躍の場を求め、収入を最大化することが豊かさにつながるといえる。

一方、仕事は人並み程度にして支出を抑えることで余裕のある生活を送りたいと考えるなら、三重県や富山県など、可処分所得と基礎支出の差額が大きな地域が適している。これも実質的には年収が上がったようなものだ。

「年収」や「豊かさ」をどう捉えるか。コロナ禍で社会が大きく変わる今、あらためて自身の境遇や将来を見つめ直し、幅広い選択肢を検討したい。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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