いわゆる大金持ちとされる人々が超高額アートを購入するのは単なる道楽ではない。投資目的のほか、節税対策として購入している側面もある。富裕層と超高額アートの関係をここで説明しよう。

超高額アートを次々落札する富裕層たち

富裕層、特に海外の富裕層にとって、資産形成のポートフォリオには「現金(債権)」「不動産」「株式」に加え「アート」を加えるのが近年、一般的になってきている。投資対象としてそれだけ魅力的ということだろう。

最近では、ZOZO創業者の前澤友作氏が約1億1,049万ドルでジャン=ミッシェル・バスキア作の絵画「Untitled」を落札したことも話題となった。

なお、絵画の落札最高額はレオナルド・ダ・ヴィンチの作とされる「サルバトール・ムンディ」の約4億5,031万ドルとなっている。落札者は非公開だが、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が現在所有していると見られている。

超高額アートに対する税制優遇

富裕層が超高額アートを購入する理由のひとつには、税制優遇が挙げられる。世界各国で文化財の国外流出を防ぐための税制優遇措置がとられており、日本でもそれは同様だ。

例えば、文化的価値の高い美術品は「登録美術品」として登録した上で美術館に貸し出せて、そうした作品は相続税の物納に使うことも可能となる。超高額アートには、この「登録美術品」に登録可能なものが多いと考えていいだろう。

登録基準は、「重要文化財に指定されたもの」もしくは、「世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの」のいずれかに該当するものとされ、後者は、「我が国の国立美術館・博物館のコレクションの主要な部分を構成しうる価値を有する」作品とも説明されている。

2021年4月1日には登録基準が改正され、登録対象が拡大。制作者が生存中の美術品も範囲に含まれ、「制作後、原則として10年を経過した作品」「文化庁長官が定める美術館が開催する展覧会(公募により行われるものを除く)において複数回公開されたことがある作品」であれば、登録可能となった。これは現代アートの国外流出を防ぐための改正といえそうだ。

相続税を金銭で納付することが難しい場合、金銭以外の相続財産で相続税を納付できる。通常の優先順位は、第1順位「国債および地方債または不動産および船舶」、第2順位「社債および株式」、第3順位「動産」となっており、一般の美術品は第3順位の「動産」にあたる。

つまり、一般の美術品は相続税の物納には使いにくいといえるが、「登録美術品」に関しては特別に第1順位となるため、物納が容易となる。

美術品にかかる相続税の納税を猶予してもらえる

「登録美術品」の税制上の最大のメリットといえるのが、相続税の納税猶予制度だ。

これは、美術館と長期寄託契約を結んで美術品を貸し出している最中にその所有者が死亡し、美術品を相続(または受贈)した者が寄託契約を継続した場合に、その美術品にかかる相続税額の80%相当が納税猶予される制度である。

これをうまく利用すると、多くの「登録美術品」を持っておくことで、一度に相続税の負担がのしかかってくることを軽減できる。

①その美術品を相続した者(または受贈者)が死亡した場合か、②その美術品を寄託先の美術館に贈与した場合、あるいは、③その美術品が災害により滅失した場合、には猶予されている税額自体が納税免除となる。

こうした税制優遇は相続税の節税、税負担の軽減を図りつつ、社会貢献・文化貢献できる点でも富裕層にとっては魅力的であるようだ。

超富裕層は節税対策で美術館を作ることも

大企業の創業者一族といった超富裕層の場合、メセナ(芸術・文化支援)活動の一環として美術館を作ることがある。

美術館を公益財団法人とした場合、公益目的事業から生じた所得は課税対象にならない。個人が公益財団法人に寄付をした場合、所定の範囲でその個人における所得控除(寄付金控除)として計上できるほか、美術品を寄付する場合は寄付時の時価から取得額を引いた値上がり益に通常かかる所得税が非課税となる。

こうした税制優遇措置を期待して、所得税や贈与税、相続税などを節税する目的で公益財団法人としての美術館が作られているケースも多いと思われる。ただし、税負担を不当に減らしていると国税庁に判断された場合は、そうした優遇措置が取り消されることもある。

文・モリソウイチロウ(ライター)
「ZUU online」をはじめ、さまざまな金融・経済専門サイトに寄稿。特にクレジットカード分野では専門サイトでの執筆経験もあり。雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、企業広報サイトなどに編集・ライターとして関わってきた経験を持つ。

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