世界で最も高い年俸を受け取っている国家指導者はシンガポールのリー・シェンロン首相と報じられるなど、シンガポールの公務員における給与の高さはしばしば話題になる。公務員に高い報酬が支払われる背景には、優秀な人材を確保するためのシンガポール政府の政策があるようだ。

首相の年俸が米国大統領の4倍

香港のサウスチャイナ・モーニング・ポストは2021年、リー・シェンロン首相の年俸は160万ドルで、3位のジョー・バイデン米国大統領の4倍と報じた。同紙によると、日本の菅義偉首相(当時)は25万5,000ドルだというから、日本の首相の6倍に相当する。

シンガポールは議院内閣制を採用している。大統領が国会議員の中から首相に任命し、首相の進言により、国会議員の中から大臣を任命する制度となっている。現在のリー・シェンロン首相は、2004年8月に就任している。

シンガポール政府は1府15省から成り、公務員局の2012年データによると、公共部門の職員数は約13万人に上る。

市長職の年俸が6,700万円

シンガポールには日本のような地方自治体が存在しない代わりに、国内を5つの地域に分け、各地域で政策を実施する機関として社会開発協議会(Community Development Council:CDC)が置かれている。

在シンガポール日本人向けメディア「WEEKLY SingaLife」によると、CDCで市長のような役割を果たすMayorの年俸は66万シンガポールドルだという。2022年11月現在のレート(1シンガポールドル=約100円)で日本円に換算すると6,600万円だから、Mayor職の年俸も日本の首相をはるかに上回っている。

同メディアによると、閣僚のうちMR4級の年俸は1.1億シンガポールドルとなっている。日本円にすると1億円を超える額だ。

シンガポールの閣僚には、MR4〜MR1までの段階がある。MR4級とは、初任の閣僚クラスにおける報酬の算定基準を指す。シンガポール国民の上位1,000人の所得中央値から40%割り引いた額がMR4級の給与額基準となり、これが公務員全体の給与額の算出根拠ともなる。

手厚い給与と厳しい汚職防止法

シンガポール政府がここまで閣僚をはじめとした公務員の給与を手厚くしているのは、優秀な人材を公務員として確保するためだ。民間企業と同様に、公務員に対しても「給与は業績への対価」と捉える点が日本とは大きく異なっている。

一般公務員の給与は、基本給に加え、業績手当、業績昇給、変額賞与から成るが、成果や能力に応じたインセンティブを与えることで、民間に人材が流出しない仕組みが作られている。

シンガポールは、汚職が少ない政府としても知られている。それを支えるのが、高額な給与と厳しい汚職防止法だ。

汚職防止法には、以下のようなことが定められている。

・汚職が疑われた者は、自らその無実を証明するに足りる説明ができなかった場合、汚職罪に問われる。
・賄賂を提供された場合、その提供者を警察に通報する義務がある。
・職務権限がなくても、賄賂を受け取った場合、収賄罪となる。

(出典:財団法人自治体国際化協会)

高額な給与を得ることで、公務員には高い倫理観と公平性、透明性を持って職務にあたることが求められている。

優秀な人材確保のための奨学金制度

シンガポールの国土面積は約720平方キロメートルで、東京23区と同程度の広さだ。人口は2020年で約569万人。人的資源が限られていることから、シンガポール政府は民間企業との競争の中で、優秀な人材を公務員として確保するために、給与面以外にもさまざまな施策をとっている。

公務員の採用は能力主義で、国益に影響を与えたり、機密事項に関わったりする一部の職を除いて、国籍も年齢も問わない。応募者は、政府の公式なリクルートウェブサイトにアクセスすれば、各行政機関への応募手続きが一括で行える。

優秀な人材に将来、公務員として働いてもらうために、手厚い奨学金制度も用意している。大学卒業後の一定期間を公務員として働くことを条件に、国内外の大学で学ぶための奨学金を支給する制度が用意されている。

実際に、多くの事務次官と閣僚が、こうした奨学金制度の中でも上位に位置付けられる大統領奨学金と国防省奨学金の受領者の中から輩出されている。いわば学生のうちから「青田買い」することで、民間への頭脳流出を防ぐ狙いがあるのだ。

世界競争力ランキングで3位に

スイスにある国際経営開発研究所(IMD)が2022年6月に発表した「世界競争力ランキング2022」で、シンガポールは、前年の5位から2ランク上昇し3位となった。ちなみに日本は34位だ。

IMDは63ヵ国・地域を対象に、「全体スコア」「経済パフォーマンス」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の5つのカテゴリーでランキングを発表している。シンガポールは、経済パフォーマンスで2位、政府の効率性で4位、ビジネスの効率性で9位に入っている。

早い段階で優秀な人材を確保し、民間に負けない高額な給与を払うことによって、クリーンで優秀な行政機能を維持することが、シンガポールの国際社会での地位を支えているといえるだろう。

文・MONEY TIMES編集部

【関連記事】
サラリーマンができる9つの節税対策 医療費控除、住宅ローン控除、扶養控除……
退職金の相場は?会社員は平均いくらもらえるのか
後悔必至...株価「爆上げ」銘柄3選コロナが追い風で15倍に...!?
【初心者向け】ネット証券おすすめランキング|手数料やツールを徹底比較
1万円以下で買える!米国株(アメリカ株)おすすめの高配当利回りランキングTOP10!