2022年は世界的なインフレが進行した。モノに対してお金の価値が下がるインフレ下では、これまでの常識からは目を疑うような「高額紙幣」が現れる。歴史をひもとくと、ハイパーインフレで100兆単位の紙幣が刷られたこともある。世界最大額の紙幣は21桁にも及ぶという。

過去最大額の高額紙幣は?

世界の歴史において最も高額な紙幣は、第二次世界大戦後の1946年にハンガリーで発行された「10垓(がい)ペンゲー紙幣」だ。ギネスブックにも登録されている。ペンゲーとは当時のハンガリーの通貨で、1垓とは10の20乗だ。つまり、ゼロが20個並ぶ21桁の数字となる。

日本においては、多くの人にとってなじみのあるお金の高額単位は1万円札の「万」だろう。宝くじに思いをはせるなら「億」、国家予算は「兆」だ。その上はゼロが3つ増えるごとに「京(けい)」「垓」「𥝱(じょ)」「穣(じょう)」と続くが、日常的に目にすることはほとんどない。

当時のハンガリーでは、戦後の物資不足によりモノの価格が急上昇し、ハイパーインフレに陥っていた。10垓ペンゲー紙幣も準備されたが、発行には至らなかった。

なぜインフレで高額紙幣が生まれる?

そもそもなぜ、インフレが起きると高額紙幣が発行されるのか。

例えば、急速なインフレにより1個1万円だった商品が、短期間で1個100万円になるとする。現金でこの商品を買おうとすると、1万円札を100枚持参することになる。1万円札の存在価値がほとんどなくなり、10万円札、100万円札が発行されるかもしれない。

極端な例のようだが、第二次世界大戦後のハンガリーでは同様のことが起きていた。ハイパーインフレ下では次々と高額紙幣が刷られ、さらには現金の価値がほとんどなくなる。人々は物々交換をメインにするようになり、価値を失った紙幣は壁紙にされたり暖を取るために燃やされたりさえしたという。

ドイツやジンバブエでも高額紙幣が

この他にも、高額紙幣が発行されたことがある。第一次世界大戦後のドイツでは「100兆マルク紙幣」が発行された。2000年代にも高額紙幣があった。「100兆ジンバブエドル紙幣」だ。1980年に導入されたジンバブエドルは激しいインフレにより、通貨の桁数を切り捨てる「デノミネーション」も複数回実施された。現在はRTGSドルが導入され、ジンバブエドルは廃止されている。

高額紙幣は社会、経済の変化と混乱の象徴

高額紙幣はハイパーインフレの象徴だ。ハンガリーの「1垓」紙幣は極端なケースのように感じる。しかし歴史的には、経済の急速な変化によって現金の価値が下がり、通貨に影響を与えるだけではなく社会に大きな混乱を呼ぶこと自体は珍しくない。

世界的なインフレの深刻化が懸念される現在も、例外ではないかもしれない。

文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。

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